【序・野支(やつか)一族】





 京の都を衰退させている、鬼の襲撃。
 その鬼たちの頭目となっているのが「朱点童子」なる鬼である。

 かの悪鬼を打ち倒さんと、幾人もの猛者が討伐に挑んだ。
 だが、ただ一人として帰った者はなかった。

 その悪鬼の住む居城・朱点閣に、過去にただ一度、辿りついた者たちがいる。
 それが今の野支一族の始祖、源太とお輪である。

 惜しくも源太は朱点の罠、その凶刃に倒れ、お輪は生まれたばかりの己の赤子を助ける為に朱点にその身を差し出した。
 その赤子こそが、野支一族の始まりを告げる者だった。


 身を挺したお輪によって、赤子は命を奪われる事はなかった。
 けれど朱点により、その身には二つの呪いがかけられたのである。
 強き意思と力を持つ二人の残した子、その仇討ちを恐れてこその呪いだった。

 1つは短命の呪い。
 この呪いによって、野支の血を引く者は常人の何倍もの速さで成長し、老い、死んでいく。

 もう1つは、種絶の呪い。
 人と交わり子を為すことが出来ない、それが2つ目の呪いだった。

 どちらの呪いも、野支の血を根絶やしにしてしまうには充分過ぎるものだった。
 どちらか片方でも、呪いは子の身を蝕み地上から消し去っただろう。
 まるで初めから存在していなかったかのように。


 けれど、そこに救いの御手が差し伸べられた。
 滅び行く宿命の野支の血、朱点を討ち果たす力を持った二人の残した一粒種を、このまま朽ち果てるに任せるにはあまりに忍びないと。
 2つの忌まわしい呪いをその身に受けながらそれでも尚、生きる力を失わない強き血をこのまま絶やすべきではないと。
 そう判断し、野支の血を残すべく立ち上がったのは天に住まう神々だった。

 朱点を討ち取ることは叶わずとも、源太とお輪の残した功績は今まで誰もが為し得なかったこと。
 その二人の血と力、何より意思を継ぐ子ならば、きっと朱点を討ち果たすことも可能だろうと。
 下界には不可侵であった筈の神々が、勇者の血を残し、育て、血脈を継ぐことを申し出たのだ。

 野支の血にかけられた忌まわしい呪いを解くことは、神々にも叶わなかった。
 それほど朱点の力は強いのだ。
 けれど、呪いを解くことは叶わずとも、神の力を以ってして子を残すことは出来る。
 野支の血と、神の血。

 2つを混じり合わせ、子を為す。
 育てるのは、血脈。
 ゆっくりと、だが確実に血を育て、力を蓄え、いつの日か朱点を討ち果たしその呪いを解くこと。

 それが、野支一族に課せられた使命だった。

 呪いを受けた人の子と、神の交わり。
 それが何を為すのか、この先の未来に何があるのか。
 知る者は、いない……









 





         NEXT【壱・廻る風車】

 

 

         閉じる