大好きな君だから ずっとずっと 足りない。 足りない足りない。 ぎゅー、と。 決して痛みは感じない程度に、けれど身動きが取れないだけの絶妙な力加減で新八を抱きしめながら。 振り払われないことに安堵して。 布越しに伝わってくるぬくもりにひそりと笑う。 だけど。 鼓動も体温も吐息も。全て感じる位置にいながら、それでも。 足りない、と貪欲に思う。 満たされる心地を確かに感じるのに、もっとを求める心が在る。 腕の力をやや緩めて。それでも決して離しはせずに。 畳みに投げ出す様に転がっていた体を起こし、新八の後ろに座る格好になった。 沖田の動きに気付いたのだろう、新八が振り返ろうとする。 それより早く。 「う、わあっ!」 首の後ろ、項に素早く顔を寄せ。 べろりと、舐めた。 新八の肩が跳ねる。 初めてでもあるまいし、と思いはしたが口に出す前に新八が声を荒げた。 「いきなり何してんですかアンタはァ!」 「いやァ、さも喰っちまってくだせェ、と言わんばかりに無防備に晒されてっからよォ。これはご期待に沿えねばなるめェ、と」 「何を自分に都合のいいように解釈してんすか! 無防備も何も、座ってただけだから! 期待なんざこれっぽちもないから!」 「相変わらず照れ屋だなァ」 「照れてないですからー!!」 沖田の腕をどうにかこうにか外そうとしているらしい。新八の手ががしりと沖田の腕を掴んだ。 だが絶対的な体勢の不利と、純粋な力の差は埋められようはずもなく。 ぷるぷるとまるで小動物のように震える肩を、沖田は楽しげに眺めていた。 逃げられるはずもないのに。 逃がしてやる気など更々ないが、必死な姿はなかなかに見ていて楽しい。 いやァ、まったく。 何でこんなにS心をくすぐってくれんのかねェ。 口に出したら新八が顔を蒼くしそうなことを考えて、くく、と笑う。 その声が聞こえたらしい新八が、不自由な体勢で沖田に顔を向けた。 眦が、頬が、耳が、赤く染まっている。 あーあー。 だからそういう顔したら。 ますますやめてやれねェだろうによォ。 「ドS全開って顔しないでください! もう、気が済んだなら離してくださいって!」 「気が済むまで、ってェならずーっと離せねェけどなァ」 「ちょ、ホントにそろそろ……っ」 「俺ぁ新八のこと大好きだからよ、出来るならずーっとこうしていてェ」 言いながら、今度は耳の後ろに口づける。 新八が息を呑んで目を伏せた。 音がしそうな勢いで顔を前に戻した、その唇が。 ぼそりと反則だ、なんて呟くのが聞こえた。 それに笑って、拘束するようにしていた腕を解く。 座る位置を少しずらして、新八の真横、その左耳が目の前にくるように。 こうすれば、顔が見える。 「なァ、喰っていーかィ」 「は?! ちょ、昼間っから何」 「好きだもん。足りねーもん」 「可愛げがあるような言い方したってダメです! やです!」 「つってもまァ、逃げられねーけどな?」 逃す気もない。 それはもう、ずっと。 新八の腕を最初に掴んだ、その時から。 だって。 人の心を奪ったからには、それ相応の責任を取ってもらうのが筋ってもんでさァ。 「おき」 「しー」 「んぐっ」 ひらり、手のひらで新八の口を塞ぐ。 広げた指、その親指と小指でそれぞれ頬のラインをなぞってみせた。 やわらかい。 感触を楽しむようにゆっくりと撫であげれば、困ったように眉が寄せられた。 あともう一押し。 内心で呟き、耳元に口を寄せる。 ふ、と戯れに息を吹きかければ、ぎゅうと目が伏せられた。 その耳朶に舌を這わせ、囁く。 「好きだから、触りてーんでィ」 「うぅ……」 「ちっとだけ。な?」 頷け。 そうしたら、優しいだけにするから。 脅迫なのか懇願なのか。 自分でもどちらかなのか、もう分からずに。 ただ、触れていたかった。 新八の返事を待つ間も、戯れのような口づけは続けたまま。 やがて。 新八の頭が、微かに上下に動いて。 それに沖田は、嬉しそうに笑ったのだった。 触れることに満足する傍から、次を求めて。 終わらない、足りない、もっと。 子供じみた感情だ。 我ながら呆れてしまう程の。 それでも。 好きだと言った言葉に、嘘はない。 この指が、唇が、触れられることに歓喜する心にも。 だから、ねえ。 ずっとはムリでも、少しでも長く。 触れたがることを、許してほしい。 大好きだから、ずっと。ずっとずっと。 END これ、ちょ、見てくださいよこの背景ィィィ! どうしようもうホントどうしたらいいっすか! あのはなせさんと素敵コラボとかって、運使い果たしてるんじゃないですか自分! 元々絵板に描いて頂いたんですけどね。 それがあまりに素敵で妄想ぶっこいちゃいまして。 SS書いてもいいですかー、と打診しましたらな、何と描き下ろしてもらっちゃ……っ! あああはなせさんありがとうございます大好きです!! 調子こいて全く同じ話の新八視点とかやっちゃいました。 UPDATE/2007.6.3. |