7.デリケートが良いとは限らない (ハッピーバースディ、その前に。) 廊下で擦れ違った、いつにも増して気合いの入った悲鳴と轟音。 一団が通りすぎた後に巻き起こった突風に、思わず口があんぐり開いた。 「な…なんだぁ?」 「今日は犬飼君の誕生日なんですよ」 「うを、辰っつん。誕生日ぃ? ワンコの?」 かけられた声に振り向くと、そこには犬飼の補佐というかむしろ保護者と化している辰羅川がいた。こちらもどうやら天国同様移動教室の途中のようだ。 見ると辰羅川の手には二人分らしい教科書類が見てとれる。 ちなみに天国の補佐こと沢松は週直で職員室に寄る用事があるとのことで、先に行ってしまった。 「あー…何か凄まじいなと思ったら…」 「休み時間ごとに逃げ回る気らしいですよ」 「うへえ…よーやるわ。っつか、プレゼントくらい貰えばい〜のにな?」 「それが出来れば普段から苦労はしてないでしょう」 「あ〜、ま、そだな。愛想のいいワンコって想像できんし。つかキモいな」 容赦なく言い、天国はけらけら笑った。 対する辰羅川と言えば、否定する気はないらしく僅かに肩をすくめただけで。 「こうなることが予測できない訳じゃないでしょうに…必死というか何というか…」 「何が?」 「いえ、独り言です。では私はそろそろ」 「おー」 辰羅川と別れ、天国も目的の教室に向かって歩き始めた。 次の授業は生物。 何やらやたらとNHK関連の番組を見せたがることで有名な教師が担当だった。三回に一回は視聴覚室に招集される。 別名、『寝るのに最適授業』だ。 「誕生日…誕生日ねー…」 呟いて天国は首を捻った。 あんな必死の形相で逃げ回る誕生日って、どうよ。 解逅は一瞬だったけれど。青い…いや青黒い顔で疾走していた犬飼を思い出して、天国は小さく吹き出した。 もういっそ開き直って女のコたちの相手でもすればいいのに。 そんなことを考えて、すぐにまぁ出来るわけないよな、と思い直した。 それができないからこその、犬飼冥なのだ。 視聴覚室に着いた天国は、席に座ると携帯を取り出した。 あの機械音痴…まさか携帯を携帯してねーってことはねーだろな… ありえ過ぎる考えに、思わず額を押さえた。 「いきなり挫折かよ…」 ああもうそれもこれもあの黒ワンコの所為じゃねえかよ!こげこげしやがって! ともかく次に顔合わせたらその黒は何事なのかと問い詰めよう。 そんなことを固く誓いつつ、ぷちぷちと携帯を操作する。 送信先は、 『犬飼冥』 |
今更な感満載なワンコはぴば話。 UPDATE 2005/12/20 |