2.帰ろう、いつかの約束へ



 ――俺が、守ってやるからな。


 あの日。
 小さな弟に誓った言葉。
 約束とも言えないような、一方的な誓い。

 小さな手を引いて、一緒に歩いた。
 今では届かない場所にある、その手。
 いつかまた、引いて歩くことが出来るだろうか。

 海の向こうは、ひどく遠い。


 渡米してから、弟にも母にも連絡を取ることはなかった。
 正確には取る事が出来なかった。
 親父は海の向こうのことは忘れろの一点張りで、連絡先を教えてはくれなかったし。
 何より、投げる事に専念するばかりの日々の中ではそうそう暇もなかった。
 どうにかこうにか落ち着いてからようやく調べ上げた連絡先には、もう二人はいなかった。

 ガキの腕で出来る事には限界がある。
 それでも俺は諦めてはいなかった。
 弟に、もう一度逢うことを。
 諦めるワケにはいかなかった。
 約束を果たす、その為に。

 俺が最後に見た弟の顔は、泣き顔で。
 それは俺が一番見たくないと思っている表情で。
 笑って欲しかった。
 笑っていて欲しかった。
 泣き虫な弟が笑う顔が、俺にとってどれほど嬉しいことだったか。
 その笑顔に、どれほど救われていたか。

 手が届かない場所に来て、それを痛感させられた。
 海の向こうで、また泣いているのではないかと。
 そんなことを思っては、力のない自分に苛立った。


 俺に出来ること。
 それは、投げ続けることしかなかった。
 ここで親父に見限られれば、きっと一生天国に会うことは出来ない。
 弟と再会する為に出来ること、それは誰より最高のピッチャーになることだった。

 力を付けて、海の向こうまで名前が知れるほどの選手になれば。
 そうすれば、天国にまた会うことも出来る。
 そう、思った。



 ――俺が、守ってやるからな。



 約束を、未来でいつか果たす為に。
 俺は最高のピッチャーになることを決めた。


END

 

 

久々に短い文でございます。
しかし自作お題は当初こういった感じの、
日常の一端を切り取ったようなごく短い文で行う予定でした。
(勝手に自分の中だけでは)
しかし思いついたネタが長かったり、
思い入れがあるせいで(題にも話にも)長くなったり。
これからも好き勝手やるかと思いますが、
大好きという気持ちだけは大前提に頑張ります!
(話そのものに対してはないんかい)


UPDATE 2005/12/9

 

 

 

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