12.幾つか季節が過ぎて




 恋の終わりは、唐突で。
 このまま世界が終わってしまうのではないかと思うぐらいに、泣いて喚いて落ち込んだ。

 それでも世界は終わることなく続いていて、俺も懲りずに生きている。
 桜が散って、セミが鳴いて、気付けば夏も終わり寒くなっていた。
 俺一人が時間が止まったように感じていても、地球は回り季節もちゃんと巡っているらしかった。
 ……当たり前か。
 たかだか一人の落ち込みぐらいで地球が止まるようなら、とっくにこの星は回転を止めてしまっているだろうから。

 巡る季節を物語るように、失恋の痛みも日毎に薄れていった。
 終わってすぐの時はそれこそもう俺の世界は終わってしまうと、本気でそう思っていたのに。
 時間が解決してくれる、なんて誰が言ったのか知らないけど言い得ているなあ、とつくづく思う。

 そりゃ今でも、ふとした時に思い出して、隣りにいないことを実感するその度にどうしようもない淋しさを覚えることはある。
 だってあれだけ好きだったんだ。
 それぐらいは仕方ない、許してほしい。
 でも、痛みを覚える回数も、その痛みも日を追う毎に少なくなり、薄れていった。
 ……それが、痛みが薄くなったのかそれともただ単に慣れてしまっただけなのかは、正直分からないけれど。


 今なら、何となく分かる。
 ダメになった理由。
 一緒にいられなくなった理由。

 終わってみて、離れてみて、見えていなかったことが沢山あったんだなと思い知った。
 きっと俺たちは、いつか終わってしまうべくして始まったんだろう。
 そんな風に言ってしまうのはあまりに淋しいし、何だかカッコ悪いような気もするけど。
 でも、そうだったんだと思う。

 終わってしまったのは今でも切ないけど。
 なんでだろうとは、思ってない。
 哀しみが、胸の痛みが薄れてきたっていうのは。俺の中で、二人のことが思い出になってきたからなんだろう。
 思い返しても、もう大丈夫。
 別れてすぐの時は、それこそ死にたいぐらいの虚無を感じていたはずなのにな。

 でも、哀しいだけじゃなかった。
 苦しいだけじゃなかった。決して。
 それだけは胸を張って言える。
 楽しいことも嬉しいこともあった。
 そう、思ってくれていればな、と。今なら穏やかな気持ちで願えるよ。

 俺は少なくとも苦いばかりじゃなかった。
 時間を共有できて良かった。そう思ってるから。


 人の気持ちなんて目に見えない。
 だけど、だから。
 俺は俺の大切な人に、優しくありたい。

 世界の終わりに似た痛みだって、いつか癒える。
 ……疵が、残ったとしても。
 多分、どんなに小さな痛みも疵も。
 消えるものなんてないんだろう。
 痛みが薄くなって、怪我をしたことを忘れてしまったような気になっても。
 疵が在ることを思い出したら、きっと小さくでも疼くだろうから。

 それでも。
 人は生きている限り前を向く。
 前を向いて、歩き出して、新たな出会いがある。
 その中で、疵のことを忘れていく。
 それは多分、間違ってない。
 人は脆く強かだから。
 そうして俺は、そういう人が好きで、俺もそう在りたいと思う。

 新しい出会いがあれば、きっと別れが在る。
 だけど別れの疵を恐れて出会いに躊躇するのは、あまりにも勿体無いから。
 俺は今日もまた、誰かに出会う。


 ……まだ、恋をする気にはちょっとなれないけど。
 いつかまた誰かを好きになるんだろう、俺も。
 その時には、今より優しくなれているといいなと、そう思う。

 いつかまた、会う日が来るのかな。
 そういう日があってもおかしくはないよな。
 これからどうなるのか、俺には分からないけど。
 これだけは言える。

 幸せで いて ください。

 心の底から、そう願える。
 だってアンタは、俺が心から愛した人だから。
 誰よりも何よりも大事だって、嘘偽りなく思えたから。
 そういう気持ちをくれたことを、俺は今でも感謝してるんだ。

 次に会えたら、聞いてみようか。
 いつになるのかなんて、全然分からないけど。
 きっと笑顔で言える。


 ――幸せにしてますか?



END

 

 

時々発作のように書きたくなるらしい、切ない系。
終わった恋を優しい気持ちで振り返る天国さん。

幾つか季節が過ぎて 幸せにしてますか?

という歌詞ではじまる歌なのです。
出会った人全てにこういうことを思えるようになりたい。


UPDATE 2005/11/1(火)

 

 

 

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