1.冒険は今まさに、はじまりを告げた



 不規則に、けれど均一に並べられた数字の羅列。
 それは、健二にとってはどこか迷宮への入り口にも思えた。
 最初の数字が、冒険への始まりだ。
 そこから、数字の海へ潜り、一つ一つに触れ、解いていく。

 数字と向き合っている時の感覚は、不思議なものだった。
 真っ白い世界の中、自分と10種類の数字だけしかこの世には存在していないような気にさえなる。
 ぐるぐると回る数字が健二を取り巻き、たまに落ちていったり、行き詰った時などは視界を塗りつぶす程に迫ってきたりもする。
 だが、どれ程の思いをしても健二はこの迷宮に挑むことを止められなかった。やめようと思ったこともなかった。

 ともすればこの迷宮には出口はないようにも見える。
 押し寄せる数字は美しいのに、だからこそ残酷に四肢の動きを封じ、縛りつけようとする。
 ここで溺れてしまえ、と。
 そう甘く優しく囁かれているような気になる。

 けれど、その誘惑を束縛を振り切り、目指す先には、確かに光が在る。
 最初は針の先のような、小さなものが。
 幾つもの数字に触れ、撫で、解いていくうちにハッキリとした光明に変わっていく。
 その瞬間が、とても好きだった。

 オタクというかマニアというか、などと友人である佐久間には言われたりもするけれど。
 あながち間違っていないというか、事実であるから否定も出来ない。
 誰に何を言われようと、ただ、好きなのだ。
 それしか言えないのが情けないけれど、事実で、それしかなかった。
 あの静かな世界が、光を見つけた時の気持ちが、終着点に辿り着いた時の達成感が、ただ、好きだった。

 そして、今日もまた。
 健二は一人静かに、迷宮へ潜っていく。
 




 

 

解く(とく)と解く(ほどく)の文字が一緒なのって、何か好き。
作中の解くはほどく、の方で。

UPDATE 2011/2/4

 

 

 

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