7.「大空」見据えて何想ふ。




 その人は空を、見ていた。
 見上げていた。
 まっすぐにまっすぐに、ただ空に視線を投げていた。


 何を見ているのだろう、想って自分も同じように空を見上げてみる。
 快晴の空。雲一つ、ない。

 綺麗だな、そんなことを胸の内で呟いたその時、彼が振り向いた。
 多分、自分の気配に気付いたのだろう。
 彼は理論的なことが苦手なその分、勘が鋭いから。


「三橋じゃん」

「田島くんっ……何か、見てたの?」

「空!」


 にっと歯を見せて笑い、言いきる。
 彼の快活さは自分にはないもので、すごく好きで羨ましいなあと思う。
 空かぁ、と三橋が口の中で呟くと、うん空だ、と頷いた。
 阿部辺りが居たら天然無敵バカコンビ、とでも毒舌なことを言いそうな光景だが、生憎今ここには三橋と田島しかいない。


「こーゆー空にホームランかっ飛ばしたら、すっげー気分いーんだろうなーってさ。考えてた」

「そ、かもね」

「4番は打つのが仕事! だかんな」


 打ちてえなー、言う田島の顔は、何気ない口調ながらバッターの顔だ。
 揺るがない、動じない、ただ投げられる球だけを見据える。
 田島は打つことに貪欲だ。
 多分、三橋が投球に見せる拘りと同等くらいに。

 三橋は何となく空を見上げて、この空を切り裂くように打てるのならそれは確かに気分がいいのかもしれない、と考えた。
 空の高くを目指し飛ぶ、鳥のように。
 白いボールがぐんぐんと飛ぶ。
 高度を上げて、誰の手も届かない高みへ。

 それは多分、とても綺麗な光景だろう。
 白いボールが、雲のように空に吸い込まれて行く。
 その光景が脳裏を過ぎり、早く投げたいな、と三橋は呟いた。
 それを聞いたのだろう、田島が俺も打ちてー、と口にする。


「野球やりたい、ね?」

「だなー。早く授業終わんねーかなー」


 青い青い空の、その下で。
 早く野球をやりたい、無性にそう思う。
 三橋の呟きに田島は頷き、笑った。



END


 

 

三橋と田島。
何とかと天才は紙一重、なコンビで。

田島様の時折見せる男前な面はかっちょえーのです。
レンレンのマウンドで見せる目はすごいです。

何はともあれ、野球バカ。
万歳!


UPDATE 2005/3/1

 

 

 

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