3.しつこいなぁ、もう。 「なー、新八ー?」 愛読書、と言えば聞こえはいいけれどつまりは少年漫画ことジャンプに目を落としながら、何気ない声で。 いつもと同じように。 「ちょっと、オイ、聞いてんの?」 返事をしないでいたら、少しだけ苛立ったみたいに。 「新ちゃーん、俺の声聞こえてますかー?」 顔を上げて、今までより少し大きな声になる。 「新八ってよ。呼んでんだろー」 バサリ、音を立ててジャンプを置いて立ち上がる。 「いねーのか? 寝てんのか?」 けだるげな足音。 が、いつものそれより少しだけ荒っぽい。 「…んだよ、いんじゃん。起きてんじゃん。返事くらいしろよな」 銀さん独り言言ってんのかと思った、と安堵と呆れが半々ぐらいの言葉。 「つーか、何で返事しねーのよ。え、何、反抗期ですかコノヤロー」 拗ねた様にぼやく声の端に混じる、焦りとも途惑いともつかない感情。 「まーただんまりか。プレイかこれ、放置プレイなのかオイ」 少し早口で、ぼそぼそと。 相変わらずくだらない、教育上よくないようなことを呟く。 「……しーんぱち。どしたよ?」 暫し黙り込んだ後、投げられるのは心配を前面に押し出した声。 背後にすとんと、しゃがみ込んだ気配。 まだ。 まだ、顔は見ない。 返事はしない。 「志村クン? 新ちゃん? オーイ」 困ったなあ、という感情がありありと伝わるような声で、呼ぶ。 きっとその眉は情けなく下がっているんだろう。 死んだ魚のような目だけは相変わらずそのままで。 「……新八ってよ」 返事してよ。銀さん泣いちゃうよ? 甘えたがりの子供のように、言う。 それは彼が命だと憚ってやまない、甘い菓子のような響き。 何が泣いちゃうだ、バカ。 「新八。新八新八新八」 今度は人の名前を連呼し始めた。 壊れた機械じゃあるまいし。 放っておこう、と思うのに。 このままじゃうるさいし、きっとお登勢さんからも苦情がくるだろうし。 ああそう、もうつまりは。 「しつこいなぁ、もう。何なんですかさっきから」 溜め息を吐きながら、口を開く。 それしか選択肢はなかったから。 振り向いて、目が合うと。 銀さんは相変わらずの目のまま、それでもにやんと笑った。 チクショー、また負けた。 END |
新ちゃんがこんなことしたのは、銀さんの糖分過剰摂取とかが原因だと思われ。 銀さんは何しても悪びれない。 …とか下書きメモに書いてありました。 特に何も考えずに書いたんですが、何気に甘め? UPDATE 2006/2/10 |