7.悪い夢を見てたみたいに 夜に狩りをする自分にとって、昼は貴重な体力回復時間。 ……と銘打って、良守は今日も屋上で惰眠を貪っていた。 持ち込んだ枕に頭を乗せ、己の周囲に結界を張り。 夏は陽射しがキツクていられたものではないが、それ以外の季節なら結界を張ってしまえば過ごしやすい。 滅多なことでは人が訪れない、手足を伸ばして眠れる、という。 屋上は良守にとって最高の睡眠スペースだった。 そこに、ある日ふと。 足を運ぶようになった奴がいた。 志々尾限。 良守と同い年の限は、夜行から派遣された妖混じりだった。 とは言え、良守にしてみれば相手が誰であろうと自分の睡眠ベストプレイスを侵犯されるのは屈辱でしかなく。 さりとて学校が良守の持ち物というわけでもないのだから、気付けば共有ということになっていた。 きっちり半分の大きさに結界を張り、今まで通りに睡眠を摂る。 それでも他人の存在というのは存外大きくて。 しかも、烏森のことも、術のことも全てを知り話せる人間というのは気が楽で。 寡黙な志々尾が口を開くことは少なかったが、それでも。 気になることがあったり、何となく話したい気分だったりすると言葉を向けるようになっていった。 ……志々尾が、烏森で逝く、その日までは。 大音響で鳴り響くチャイムの音に、眠りに沈み込んでいた意識がゆるりと浮上する。 結界が張られているから、耳にしている音は通常のそれよりずっと小さいものなのだが。 空気の振動に合わせ、結界の表面がぴりりと揺れる。 夢と現を行ったり来たりしながら、欠伸を一つ。 ああ、何だか夢を見ていた気がする。 どんな夢だったのかも、思い出せないけど。 「なあ、志々尾ー……」 ぽつり、無意識の内に言葉は唇を割って出ていた。 呼んでしまってから、己の失態に気付く。 寝ぼけていた意識は冷水を浴びせられたかのように、一気に現実へと引き戻されていた。 良守は顔を歪め、右手で目元を覆った。 良守の周囲に張られた結界は、きっちりこの場所を二分する大きさだ。 それはここ数ヶ月で身についてしまった癖のようなものだった。 隣りにはもう誰もいないと分かっているのに。 突然の喪失は、心に言い様もない影と寂寥を落とした。 志々尾が死んだそのすぐ後には、身の内に嵐が吹き荒れるような怒りと哀しみを覚えていた。 けれど少し時間が経って、ふとした瞬間に志々尾がいないのだ、と気付かされる。 そう、今のように。 「甘さ控えめのケーキ、作ろうと思ってたのにな……」 呟いて、ぱたりと手を投げ出す。 空の高い所で煌く太陽が、目に眩しかった。 いっそこれが、悪い夢ならいいのに。 口にすることも出来ない言葉は、良守の心の奥にひそりと落ちた。 答えは、返らない。 END |
祝アニメ化ー。のくせに薄暗い話。 てなわけでこっそり好きな結界師です。 限クン好きだったのよーう(泪) てゆっかこの話、どんだけ需要があるかっつったら…… え、ええねん。 好きな話を好きなように書くのがうちのサイトだから。 (開き直りやがった) UPDATE 2006/08/10 |