10.コワイモノなど何もないゼ



 職員室横のコピー機が置いてある一室は、別名喫煙ルームだ。
 禁煙ブームの昨今、堂々と吸える場所というのはニコ中まっしぐらな銀時にとってありがたかった。
 ……なんて言いつつ、結構あちこちで吸っていたりもするのだが。そもそも教頭や理事長が率先して吸っているのだから、この学校に禁煙ブームだ何だは関係ないような気もする。
 ともかく、銀時が何故この部屋にいるのかと言えば、授業で使うプリントのコピーをしに来たというだけの話。ついでに一服中、というわけである。
 思うさまに煙を吐き出しつつ、何となく窓に寄った。

「……ありゃ?」

 窓の外に人影があり、それが見知った顔だったから思わず覗き込んだ。
 学ランが二人。黒い頭とやや明るめの茶の頭。
 志村新八と沖田総悟だった。銀時が担任を受け持つ3Zの生徒である。
 コピー室が二階にあるからか、二人は銀時に気づいていないようだった。
 並んで昼食を摂りながら何かを話しては笑い合っている。

 沖田がしれっとした顔で何かを言い、それに目を丸くした新八が一瞬後に怒ったような顔で言葉を返したり。
 新八の弁当に手を伸ばした沖田が、その手を叩かれたり。
 その後苦笑しながら差し出された弁当に沖田が嬉しそうな様子を見せたり。
 提供したおかずの感想でも言われたのか新八が少し照れたようにはにかんだり。

 そこには物珍しいものなど何もなかった。
 高校生としてごく普通の、当たり前の日常があるだけだ。
 それなのに、何故だろうか。
 眩しい、と。そう思った。

「やんなるねー。おっさんみたいじゃん、これじゃ」

 おっさんだろ十分、と突っ込む第三者は残念な事に存在していなかった。
 眼下では相変わらず二人が喋っている。
 話が盛り上がったのか、二人して笑い合っていて。
 余程おかしいのか沖田の手が新八の首に回った。所謂肩を組む、という体勢だ。
 近づいた距離に新八は拒むでもなく笑って何か言っている。

 無声映画でも見ているようだった。
 ふとスイッチが切り換わったかのように、真顔になった沖田が新八の顔を覗き込んだ。
 様子の変化に気付いたらしい新八の顔からも笑みが消え、少しだけ驚いたように沖田を見返す。

「あ」

 風が変わる瞬間に立ち会ったような、気がした。
 ゆっくりと顔を寄せ合った二人の唇が、柔らかく重なる。
 瞬間、納得してしまった。
 二人がきらきらと眩しく見えた、その理由。

 恋をしているから、なんて。

 文学的には在り来たりすぎていっそマイナス評価なはずなのに、目にした光景はただ幸せそうだった。
 額を寄せ合い、近い距離で二人は言葉を交わしている。

「お?」

 かと思うと、沖田の手がすいと上がった。
 新八には見えないようにと巧みに計算された角度で上げられた腕は、どう見ても銀時に向けられている。
 中指だけがぴんと立てられた、それが。

「おーお、青春だねぇ。ったく」

 苦笑いながら肩を竦めた。
 あの沖田が独占欲を隠そうともしないなんて、珍しい事もあるものだ。
 意外といえば真面目が代名詞の新八が学校という場で唇を許したというのもそうなのだが。
 互いが互いに影響しあった結果、というヤツなのだろう。

 怖いものなど何もない、とばかりに恋心を隠そうともしない。
 眩しいような、甘酸っぱさに恥ずかしくなるような。
 けれどまっすぐに互いに向けられている感情は、見ていて心地良かった。
 自分にはあんな恋はもう出来ないな、と考えながら窓際から離れる。

「いやいや、恋は人を変えるーってか」

 銀時は呟き、紫煙をくゆらせた。


END


 

 

出歯亀すんなよ、センセー。な話。
これまたお付き合いしてる二人です。イチャつかせたかってん…!
真面目な話、人と付き合うっていうのは多かれ少なかれ自分を変える事だよなぁ、と。
んで、沖新の二人ならいい方向に影響されてくれるんじゃないかなぁ、という妄想です。

しかしリアル高校生って普通にイチャついてたりしますよ、ね…!
日常っぽい話が書きたかったのでした。

UPDATE 2008/12/02

 

 

 

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