15.いいさ、こんな日もあるもんだ。




 程なくして、背後から寝息が聞こえてくる。
 御柳は溜め息を吐き、むくりと起き上がった。


「あークソッ……ガキくせー俺……」


 呟いて、ぐしゃぐしゃと頭をかく。
 その眉間には、御柳の苦悩を示すようにくっきりと深い皺が刻まれていた。
 拗ねて不貞寝って、どうなワケ俺。
 呆れ気味に自問する。

 天国と居るとどうにも感情の自制が利かない。
 思えば最初からそうだ。
 喚いて怒鳴って、感情を剥き出しにして。
 それは多分。
 最初から、心のどこかで。


「一目ボレとかって……柄じゃなさすぎっしょ……」


 自身で呟いた言葉に思わず苦笑する。
 天国が聞きとがめたとしたら、盛大に爆笑しそうだと思った。
 苦笑いを顔に貼り付けたまま、眠る天国の顔を覗き込む。
 伏せられた目、半開きの唇。
 子供のように安心しきった顔で眠る天国に、思わず吹き出した。


「あーあー、信用されてんなー、俺ってば」


 独り占めしたい、なんて。
 そんな子供じみたことを考える日がくるとは思わなかった。
 もし思うままを告げたら、天国はどうするだろう。
 笑うか、怒るか、呆れるか。
 どんな反応をされても、別に構わないけれど。


「手放す気、全っ然ねーんだよな」


 目を細めたまま、さらりと口にする。
 なるべく軽く聞こえるように。
 冗談なのだと、そんな響きを滲ませるように。
 けれど。
 声の端が震えていて、その目論みは失敗に終わった。
 切ない、苦しいほどの想い。

 いつか傷つけ、壊してしまうかもしれない。
 天国がそう簡単に壊れるとは思えないけれど、その優しさ故に傷つくことが多いのは知っていたから。
 傷つけたいわけじゃない、それなのに。
 自分でも持て余し気味の強い感情は、いつか天国を傷つけてしまいそうだと、そう思う。
 ただ、好きなだけなのに。
 その位、想いが向かっていくのだ。
 自分でも抑えられない、途惑うほどの強さで。

 悪戯にその頬をむに、と抓めば天国は肩を竦めるようにしながらもぞもぞと身じろいだ。
 安らかな寝顔、その眉間に僅かに皺が寄る。


「俺だけ見てろ」


 耳元に、甘く囁いた。
 面と向かっては言える筈もないから、せめて夢の中だけでも。
 呟いて、眠る天国の髪をくしゃりと撫でる。


「んー……」


 言葉にならない言葉を口の中でむにゃむにゃと呟きながら、天国が寝返りを打った。
 今までは御柳に背を向けるような体勢だったのが、逆になる。

 つまり、御柳の方に顔を向けて寄り添うような格好になった。
 反射的に動きを止めていた御柳は、思わず嬉しそうに笑う。
 無意識下のうちに、天国が御柳の言葉に答えてくれたような、そんな気がして。


「あーまくに」


 くく、と笑いながら再びベッドに横になった。
 そのまま天国の体を抱き寄せ、髪に頬を埋める。
 馴染んでしまった感触に、妙に安心する自分に気付いてまた笑ってしまった。


「んん……みゃあ……」


 呼んだ声が聞こえたのか、天国がむにゃむにゃと寝ぼけ声で御柳を呼ぶ。
 甘ったるい声。
 耳朶をくすぐる子供っぽい声が、ただ心地良かった。

 まあ、たまには。
 こんな日があってもいいか。

 抱きしめた腕に、逃がさないとばかりに力を込めて。
 御柳は眠気に誘われるまま、意識を手放した。



END

 

 

Waiveお題11「触れたらこわれるし 触れなきゃこわれるし」
よりの続きものでした。
何ていうか、単にいちゃつかせてみたかっただけの話です。
やっぱりみゃあ呼びが好きなんだぜ、と。(レノ)


UPDATE 2005/12/21

 

 

 

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