2.いつか殺してやる



 遠い。
 なあ、遠いよ犬飼。


 華武のビデオを見た時、お前は言ってた。
 隠そうともしない憎悪が、俺は正直怖かった。
 華武との試合の時も、周りが見えなくなるくらいにアイツを見てた。

 知ってるか?
 愛情の反対は憎悪じゃないんだって。
 無視してしまうこと、それが愛情の反対なんだって。
 なあ、じゃあアイツに傍から見て怖いぐらいの憎しみを向けて、執着してるのは何?

 そう声に出して聞いたならお前は答えられるか?
 聞けるわけなんて、勿論ないんだけどさ。

 憎悪も愛情も、根っこの部分は同じもので出来てるよ。
 言ったら、どうするかな。
 笑うか、怒るか。
 それとも呆れるか?

 でも、そうなんだ。
 強過ぎる感情はただ心を満たして、他のものが入り込む隙間なんてなくしちまう。
 だってお前がアイツを見ていたその時、何か他のものが頭ん中にあったか?
 そういうことなんだよ。
 何かで満たされた中に、他が入り込むことなんてできねーんだ。

 ちくしょう、苦しいなあ。
 いっそのこと俺も、お前に言えば何とかなるんかな。
 笑って「いつか殺してやる」って?




 ……言えるわけねーだろ。
 なあ、お前。
 遠いよ、犬飼。




 
END


 

 

犬←猿、猿視点でした。

剥き出しの感情っていうのは、怖いもんだと思います。
それがマイナスであれ、プラスであれ。



UPDATE 2005/3/3

 

 

 

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