14.妄想は膨らむばかりどうにもなりやしない 目覚めは最悪だった。 正確には、見た夢が悪かったのだ。 その所為で飛び起きてしまった。 視界の端で確認した時計は、起き出すにはまだ早い時間帯を示していた。 けれど、一度ハッキリと覚醒してしまった意識はそう簡単に睡眠に落ち込んでくれそうにはなかった。 「……っ、くそ……」 何かを言いたくて、けれど口にするべき言葉が見当たらない。 苛立って、くしゃくしゃと手で髪をかき乱した。 喉の奥から呻くように零れた言葉は、当然の事ながら意味などなさず。 それでいて情けなく語尾が震えたりなどしていたものだから、結果としてますます苛立ちが募った。 どっ、どっ、どっ、と心臓が脈打っている。 全力疾走した後のように。 けれどその心音がもたらすのは、疾走した後の心地良い疲労感ではなく、途惑いや嫌悪、そんなものが入り混じった複雑な心境だった。 口の中と喉の奥が乾いていて、ひりひりと痛い。 己の心音を聞きながら、水を飲みに行こうかどうしようか、ぼんやり迷っていた。 「……やめとくか」 散々迷って、結局やめることにした。 誰に聞かせるわけでもないのにわざわざ声に出す辺りが、既に普段の自分らしからぬ行動だと思う。 けれど落ち着き始めた鼓動とは裏腹に、動揺は収まりそうもない。 阿部は溜め息を吐くように態と大きく息を吐いた。 肩が一瞬持ち上がり、すぐに下ろされる。 右手で額を押さえて未だうるさい心臓の音を、聞くともなしに聞いていた。 ぼんやりしていると、ついさっき見たばかりの夢のことを思い出す。 思い出したくもないのに、それでもしばらく忘れられそうにないぐらい、鮮明で強烈な夢だった。 夢とは潜在意識の現れ、だなんて。 ふざけたことをぬかしたのはどこの誰なんだろうと、そんなことを苛立ち紛れに思った。 記憶と、想像とが入り混じった夢は、妙に現実感があって。 夢の中で掴んだ手首の、触れた肩の感触が未だ手のひらに残っているようで、阿部はああもう、と呟き首を振った。 振り払えば振り払おうとすればするほど、嘲笑うように夢は意識を浸食してくる。 どうにもなんねーのに。 訪れない眠気と、じわりと熱くなった手のひらに辟易しながら、阿部はとうとう溜め息を吐いた。 窓の外はまだ、暗い。 「アイツ、まだ寝てんだろな……」 何気なく口にして。 阿部は思わず、頭を抱えた。 END |
三橋の影がほぼありませんが、阿部→三橋と言い切ります。 原作であれだけ告白したりされたりな西浦バテリですが、 いざそーゆー気持ちを自覚したら悶々と悩みそうだなあ、と。 まあ、悩め悩め青少年! 悩んでおっきくなれ! ……という話です。 ていうか阿部さま、どんな夢見て飛び起きたん? UPDATE 2005/4/27 |