わんこが好き。



※うちのP3主人公は「水沢凌(みずさわしのぐ)」でやってます。
 というわけで、勢いに任せてちょろり。



 六月。
 日常と影時間とが繰りかえす日々にも慣れ、新たな仲間も加わった。
 それにより訪れた風がまた新たな局面を運んできそうな、そんな最近。
 美鶴が何事かを隠しているのではないかと疑念を抱いていたゆかりは、けれどもう1つ気になることがあった。

「ねえ、順平!」
「ふぐ? はんだよ」
「やだ! 口に物詰め込んだまま喋らないでよ!」
「んぐ、むぐ……っはあ! ちょ、それ理不尽だろいきなり話しかけてきておいて」
「ああ、ゴメンゴメン」

 二階の自販機前。
 順平が一人で椅子に座っていた。
 遅めの夕食か、それとも夜食か。その手にはパンが握られている。
 軽く謝りながら、ゆかりは順平の向かいの椅子に腰掛けた。

「んで? どしたよ?」
「うん……ちょっと前から気になってたんだけど」
「ふんふん」

 ゆかりはきょろりと首を巡らせ、辺りを伺った。
 別に聞かれて困るような話ではないのだが、何となく。
 というか二階は男子部屋がある為、ともすれば噂の主に話を聞かれてしまうのではないかと今更ながらに思い当たったのだ。
 別に悪口ではないのだが、本人のいない場所で話題に上らせるというのは何だか多少なりとも罪悪感が過ぎる。

「あのね、水沢くんのこと」
「? 何かあったのか?」
「いや、あったっていうわけじゃないんだけど」

 そう、ゆかりのもう1つの関心所は今ではすっかりリーダー役の板についた彼…水沢凌のことだった。
 四月に転入してきてペルソナ使いとして覚醒し。複数のペルソナを使いこなすという稀有な能力を持ちながら、けれど本人は至って 淡々としている。
 愛想も付き合いも決して悪くはないのだが、その立ち振る舞いのせいかクールな印象が付き纏う。
 やや口数の少ない、だが仲間として一個人としては充分信頼に足る、彼。

 そんな凌のここ最近の動向が、何故かゆかりは気になっていた。
 気になる、というよりもどちらかと言えば気に掛かる、の方が心情としては近いかもしれない。
 それは。

「彼さ、一昨日タルタロス行ってから、何か妙に機嫌よくない?」

 あからさまに浮き足立ったりそわそわしたり、というのはないのだが。
 どうにも、ここ数日の凌はこれまでと様子が違うように感じていたのだ。
 違和感の正体を探ろうと気にしてみて、導き出された結論、それが。
 凌が何やら機嫌よさそうだ、ということだった。

 人間なのだから、浮かれることや嬉しいことがあるのは自然だろう。
 だが腑に落ちないのは、凌の機嫌が良くなったのがどうやらタルタロス後からだ、ということだ。
 いくら適性があり、ペルソナが使えるからと言っても影時間もシャドウとの対峙も進んで受け容れたいと思うような代物ではない。
 なのに何故、凌が嬉しそうにしているのか。

 眉を寄せたゆかりの問いに、だが返ってきたのはぶはっと吐き出された息だった。
 驚き順平を見れば、盛大に爆笑している。

「ちょ、何よ。何がそんなにおかしいワケ?」
「や、ワリ、くくく…っ、あーダメだ、ちょーおかしい、ぎゃはははは」
「全然話が読めないんですけどー?」
「いや俺もさ、何かいつもと違うよなーって思って聞いたんだよ。今日の放課後」





 同じ寮で、クラスメイトで、しかも同じ能力を持った仲間として日々を過ごしていれば、その性格や立ち振る舞いもある程度理解で きてくる。
 まして寮でも教室でも隣同士とくれば、その変化はすぐに分かった。
 となれば順平の性格からして、気にならないわけがない。
 授業も終わり、帰り支度をしている凌に早速声をかけた。

「なあ、何かあった?」
「何かって?」
「嬉しそうっつーか機嫌よさそうっつーかじゃん? もしや春到来ってやつですかー?」

 にやにや、笑いながら。
 古今東西、女子はコイバナが好きだと言うが、男だって嫌いな話題ではない、と思う。
 順平の問いに、凌は少し考えるように間を置いて。

「……イヌガミ」
「はい?」
「イヌガミってペルソナ、手に入れたから」

 にこりともしないまま、凌は言う。
 対する順平はと言えば、予想外過ぎる答えに途惑うばかりだ。
 イヌガミ、イヌガミって……なあ?
 思い返してみる。
 凌がイヌガミ、と呼んで呼び出していたペルソナの事。
 確か胴がやたらと長く、白い犬の幽霊のような姿をしていた。

「イヌガミって……あの、犬みてーな?」

 おそるおそる聞けば、こくりと頷きが返される。
 常々、凌の事はどこか浮世離れしているよなあと思っていたが、まさか浮かれている原因がペルソナだとは。
 思わず珍しい生き物を見るような目で見ていれば、凌は困ったように僅かに笑って。

「俺、犬好きなんだ。でも飼えたことなかったから……」
「へ、へーえ。そりゃ初めて聞くな」





「ってーワケだ」
「犬好き……水沢くんが」
「そ。意外っつーか、あのクールフェイスの内側に潜む一面というか」

 順平から聞かされた顛末に、ゆかりはすぐに言葉を返せない様子だった。
 確かにまあ、意外過ぎるといえば意外な話だろうから。
 そんなゆかりを見て、順平は目の前に置いてあったパックコーヒーを手に取った。飲みかけだったそれは表面に若干汗をかいていて 、その水滴が指を濡らす。
 ストローを咥えて中身を飲めば、ひんやりとした感触が喉を通った。

「でもさ、俺ちょっと安心してんだよな」
「安心?」
「うん。水沢ってさ、あんま自分のこと語るようなタイプじゃねーだろ?」
「それはまあ、確かに」
「ペルソナでもさ、俺らにはないような能力あるし。リーダーってのも何だかんだでこなしちまってるし」
「うーん…言われてみれば、水沢くんが焦ってるとか怒ってるとか、あんまり見ないね」

 当事者でありながら、傍観者のように。
 淡々と、冷静に、決められた作業をこなすように。
 ペルソナを、武器を使い、シャドウを倒す。

 かと言って冷徹無比な人間かと言えばそうではない。
 口数は少ないながらも人との交遊関係は築けているし、その気遣いが伝わってくる時もままある。

「まあ元々悪い奴じゃねーとは思ってたわけだしさ。知られざる一面を知って、何つーの? 親近感が湧いたっつーかな。意外と面白 い奴じゃんって思ったっつーかなんだよな。俺としては」
「……そうかもね。すっごく意外だったから驚いたけど」
「ゆかりっチ、今度その話題振ってみたらいんじゃね? 意外と食い付いてくるかもよ」
「嬉々として犬の事を語る水沢くんって……何か想像できないんだけど」


 後日。
 コロマルの参加によって凌がまた一段と喜ぶのだが……まあそれは、別の話である。



END





イヌガミ入手に喜んでいたのは私です。
コロマル参加にガッツポーズをしたのも私です。
いやでもホラ、主人公はプレイヤーの分身だからっ(笑)




2007/06/23ブログ小話
(UPDATE.2008/6/19)




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