【生まれゆく光】(荒主前提主人公、ニュクス戦後)



 窓の外では雨が降っている。
 細く白い糸が無数に垂らされているかのような、静かな雨だ。

 訪れる緩やかな眠気に苛まれながら、凌は何をするでもなく外を眺めていた。
 世界を包むような雨だ、なんてぼんやり考えてみる。
 ニュクスとの戦いから、数週間経っていた。

 タルタロスを、生死をかけて登った仲間たちは、今は何事もなかったかのように日常を過ごしている。
 約束の日にどうなるのか、なんて分からないし、どうなって欲しいと願っているのかも、よく分からなかった。
 ただ、穏やかに日々が過ぎていくのを眺めていた。

 あの日から。
 世界は変わったとも、変わっていないとも感じられる。
 目に見えて大きな変化はないけれど、何かが違う、とでも言うべきか。
 曖昧だけれど、それでいいのだろうとも思う。
 目に見え、手に取れるものだけが証ではないと。先の戦いでそれを思い知らされたから。

「よく降る、なぁ」

 呟いてみた。
 抑揚のない物言いは、以前の自分と何ら変わりがないように聞こえて、少し笑う。
 変わらないようでいて、変わったのは。
 世界だけではなく、多分凌もまた同様で。

 今自分がここにこうしている事の意味なんて、分からないし別に知りたいとも思わない。
 けれど。
 ここに居たから、出会えた人たちがいる。
 それにだけは、感謝してもいい。

 人の一生を光にたとえたのは、誰だっただろうか。
 明滅する無数の光。それを、どうしようもなく愛しいと、大切だと、そう思った。
 消えてしまった光にも、今輝いている光にも、これから生まれ来る光にも、穏やかな場所があればいい。

「……もし」

 そうして、もしも。
 いつか、どこかの。ここではない場所に、生まれ変われるのだとしたら。

「あなたを、探していいですか」

 脳裏を過ぎる面影に問いかける。
 応えはない。
 それでも凌の表情は穏やかなままで。
 眠気に誘われるまま、凌はベッドに寝転がった。

 降り続く雨は、まるで凌の眠りを守るかのように止みそうになかった。



 



Web拍手掲載期間→2009/12/20〜2010/10/4

 

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