通信不可、退路無し (2009/6/8)




 通常とは異なる方法でタルタロスに侵入した面々は、どうやら無事らしかった。
 通信が限界に近い位置にいるらしく、ちゃんとした会話は出来ていないから一応無事らしい、という憶測でしかないのだが。
 桐条は未だ通信を試みているが、返ってくるのはノイズ混じりの音声ばかりだ。
 その隣に立っているゆかりは、どこか所在なげにしている。
 荒垣は、武器を片手に階段に腰掛けていた。

「……?」

 どのくらいの時間が経った頃か。
 床に置き、自身に立て掛けていた武器の柄が、微かに震えたような気がした。
 確認するように武器の柄を握る。
 手のひらに、振動が伝わってきた。震えが続く。
 本能的に異常を感じ取った荒垣は、立ち上がった。

「荒垣先輩?」
「気を付けろ。何か、来やがる」

 二人に警戒を喚起し、武器を持ち上げる。
 荒垣の動きを見た桐条がバイクから離れ、ゆかりが弓に矢を番え臨戦態勢をとった。
 その頃には、立っていても分かるほどに辺りが揺れていた。地震などではない。
 何か大きなものが近づいてくるような、どこか圧迫されるような空気感は。

「な、何……?」
「まさか……」

 呟いたゆかりの声には、どこか怯えにも似た感情があった。
 桐条の声音にも、驚愕が現われていた。
 荒垣は手にした武器の重みを確かめるように、一度肩の上に持ち上げ、また下ろした。

 今日の出現場所は、まさに「ここ」らしい。
 空気が、びりびりと震えているような感覚だった。
 突入組の現在の状況は分からない。
 だが荒垣は元より彼ら……否、彼だけに頼るつもりはなかった。
 出来るかどうかは別として、ここにいる三人だけでこの状況を打開する。
 息を吐き、前を見据える。
 迷いはなかった。




 

 

戦う。

UPDATE/2009.11.25

 

 

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