特攻未遂 (2009/6/6)




 溜まり場に行く、と意気込んでいるゆかりと、慄きながらもそれを止められない順平を見ながら、凌はどうしようかと考えていた。
 順平が言う程恐ろしい場所ではないが、あの場の空気を知らない人間が気軽に足を踏み入れて、無事で済むとも思えない。
 しかも単に行くだけではなく、情報収集に向かうのだ。
 それはつまり、誰かに話し掛けなければならないという事になる。

「……」

 もう一度二人を見て、一度絡まれた時の事を思い返す。
 ……結局、どうシミュレーションしてみても、面白くない結果にしかならなかった。
 だがゆかりの勢いを見ると、止めても無駄だろうとは朧気ながら感じられた。
 負けず嫌いというか、気が強いというか、なゆかりの事だ。下手に止めれば逆効果になる可能性が高い。
 余程の相手が出て来ない限りは負けない自信があるが、ゆかりと順平は自分とは違う。
 喧嘩慣れしていない人間二人がいて、どこまで立ち回れるだろうか。

「ほら水沢くん、早く部屋に鞄置いて来て」

 帰宅したばかりの凌に、ゆかりが急かすように言う。
 先に帰っていたらしい順平は、ソファでげんなりした様子を見せていた。
 そんなに行きたくないなら止めればいいのに、と思うが、指摘するのも面倒だった。
 まあ順平は凌よりもゆかりとの付き合いが長い分、こうなると最早止められない事を悟って諦めの境地に達しているのかもしれない。

「あの、さ」

 とりあえず制服はやめた方がいいんじゃないか、と。
 言い掛けたその時だった。

「熱心なのは構わねえがな。それで危ない橋渡んのは違えだろ、お前ら」

 呆れたような声が掛けられ、ゆかりと順平がそちらを振り向いた。
 凌は元々帰って来たばかりだったので階段の方へ顔を向ける体勢だったから、最初から荒垣が見えていた。
 まっすぐこちらに向かってくるので何かと思っていたのだが、どうやら自分たちを止めに来たらしい。
 そういえば昨日の報告会も特に隠す事もなくラウンジで行っていたし、聞こえていたのかもしれない。

 何にせよ、荒垣から言われればゆかりも真っ向から反論はしないだろう。
 どうやらまた助けられてしまったらしい。
 荒垣と目が合った凌は、軽く肩を竦めてから、小さく頭を下げた。




 

 

あの場面ではゆかりッチの無鉄砲さにマジビビリしました。
普通の人でも「こんな」って言われたらヤだと思うよー、みたいな。

UPDATE/2009.11.19

 

 

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