喧噪、再会 (2009/5/11)



 空気が、ざわついた。
 この場所の空気はいつでも澱んでいるかのようなのだが、そこに緊張にも似た何かが混ざる。
 程なくして聞こえてきたのは、複数の足音と罵声。

「逃げられっと思ってんのかよ、バァカ!」

 バカはお前だ、と言いたくなるような言葉。
 追われているのだろう相手が、それに何事かを言い返した。こちらは比較的冷静なのか、声を荒げている様子はない。
 何を言ったのかまでは聞き取れなかったが、その物言いが更にバカを煽ったらしい。

「クールぶってんじゃねえよっ!」

 どうやらここで乱闘騒ぎに発展するようだ。
 関わるつもりは毛頭ないが、喧しいのは好まない。
 ……特に、この場所では。
 適当にあしらって追い払うかと、荒垣は腰を上げた。

「ぐあっ」

 倒されたらしい一人が、荒垣の足元にまで転がってきた。
 そのまま動かないところを見ると、どうやら気を失ってしまったようだった。
 騒いでいる連中は、荒垣には気付いていない。
 どうやら絡まれた人物はそこそこ腕が立つらしい。僅かなりとも興味をそそられて、どんな人物なのかと騒ぎの中心を覗いた。
 瞬間。
 荒垣は瞠目し、動きを止めていた。
 息をすることさえ、忘れていたかもしれない。

「く、そっ! なめんじゃねぇぞ、ガキが!」
「先に絡んできたのは、そっちだろ」

 溜息交じりの、言葉。
 多勢に無勢にも関わらず、焦った様子はなく。それどころか、どこか気だるげな。
 細身の体躯と、殆ど変わることのない表情。伸ばされた前髪。
 変わらない、深い色を宿した瞳。

 水沢、と。

 声に出さなかったのは、あまりに驚き過ぎたからだと言われても、否定できなかった。
 喧噪の中、その出会いはひどく唐突に訪れた。
 たとえ凌が、荒垣に気づいていなくとも。



 

 

再会は溜まり場にて。

UPDATE/2009.10.8

 

 

        閉じる