慟哭も絶叫もなく、ただ一人を想うということ



◆P3・順平と主人公・10/20〜31頃・多分荒主前提◆
主人公の名前は水沢凌(みずさわしのぐ)です。



 凌は、大柄というわけではない。
 というかむしろ、背丈も幅も高校生男子にしては些か小ぶりな部類に入るだろう。
 男としてそういうのは気にしていそうな問題だから、口に出すことはしなかったが。
 その、凌が。ここ最近ずっと同じ武器を使っている。
 斧や槌、といった所謂鈍器に属するものだ。特徴としては大ぶりだから攻撃力は高いが、命中力にやや劣る代物。

 前述したが、凌は小柄だ。その凌が、順平が持っても重たいと感じた鈍器を握って闘っているのだ。
 武器を持て余していたり、振り回されたりしている様子はない。凌が武器を固定することによっての問題は生じていない。
 器用なのか何なのか、凌は色々な武器を使いこなす。
 流石にアイギスの重火器やコロマルの小刀などは使わないようだが、それ以外の代物ならば卒なく使えてしまう。
 その所為もあるのか、順平は凌が結構頻繁に武器を持ち替えているのを目にしていたし、それは当たり前のことだと思っていた。凌がその日の討伐班の編成を見て、相応しい武器を選んでいるのは知っていたから。

 なのに、ここ最近のタルタロスでの凌はずっと。
 その細身な見目からはそぐわないような鈍器を手に、闘いに赴いていた。
 今日も、また。
 ターミナルが放つ光に目を細めながら、順平はちらりと凌を見やる。
 凌は両手で、斧の柄を握り締めていた。




「な、凌さ」

 タルタロスから引き上げる道すがら、順平は凌を呼びとめた。
 止めたといっても立ち止まることはなく、歩む速度をやや遅めにして皆の一番後ろを歩くことにしただけだ。
 凌は首を傾げ、順平の横に並ぶ。
 言葉は発しないながらも、向けられる目が何、と言っているように見えて。
 あー目は口ほどに物を言うってやっぱこういうのなんだろなー。
 なんて、今とは関係のないことを考えてしまった。

「や、くだらねーっつったらくだらねー事なんだけどさ。気になったから、聞いていいか?」

 こくり、頷く凌を見て。
 一度軽く息を吸ってから、言った。

「オマエさ、最近ずっと同じ武器ばっかじゃん? 俺の、気のせいじゃなきゃ」
「あれ…そうだっけ」
「……何だよ、気付いてなかったのか?」

 思わず、眉を顰める。
 凌の様子に、嘘はなさそうだったから余計にだ。
 『今』のメンバーの中で鈍器を扱えるのは凌しかいない。バランスを考えても、凌が鈍器を扱うのは別に不都合なことではない。
 それでも尚、順平が気にする理由、それは。
 少し前までは凌以外にも鈍器を扱えるメンバーがいたから、だ。

 荒垣真次郎。
 馴れ合うことを良しとしない、例えは古いが一匹狼タイプだった彼に。この友人は、何故か懐いていたようだった。
 どちらともが饒舌ではない二人だから、話に花が咲くといった関係ではなかったようだが。
 それでも時折、二人がラウンジでぽつぽつと言葉を交わしているのを見たことがあった。

 だが、今荒垣はいない。
 不慮の事故、なんて言葉には苛立ちが募るだけだ。
 荒垣は死んで、今ここにはいない。
 その事実以上に重いものなどないような気がする。
 そして、凌が鈍器ばかりを使うようになったのは、荒垣がいなくなってから、だった。
 凌が無意識に荒垣の使っていた武器を手に取っている、となると。何だかそれは、不安なような気がするのだ。

 凌は基本的に口数がすくない。
 会話が成り立たない程ではないにせよ、必要がなければ自ずから口を挟んでくるのは稀だ。
 だから、凌が内に何か抱え込んでいても。悩んでいても。
 兆候が表に現れない限り、気付けない。
 ……たとえばその内側が、ボロボロに壊れていても。

「……ああ、そっか。ここ何回か順平と回る時って真田さん一緒じゃなかったから」
「あ?」

 怖い想像をしてしまった己に、鳥肌が立ちかけたその時。
 拍子抜けするほど軽い言葉が凌から返された。
 ぱかりと口を開ける順平に対し、凌は考えるようにこめかみを手で押さえて。

「シャドウにも、色んなタイプが出てきたから。討伐に挑む時は武器の属性がそれぞれ揃うようにしてるんだ」
「はあ」
「だから、順平の行かなかった時に剣使ったりもしてるよ?」
「あ、そっすか」

 与えられた答えに、肩の力が抜ける。
 凌はそれに、小さく笑った。
 可笑しいから、の笑いではなく。困ったような、申し訳なさを感じているかのような。
 どこか、儚い類の。

「気にしてくれて、ありがとな。順平」

 俺は大丈夫だから。
 呟くように言った凌に、それ以上の言葉はかけられなかった。
 その笑みに、声音に、軽く握られた両の手に。拭い切れない哀しみと喪失感を、それでも前へ進もうという意思を否応にも感じたからだ。
 強くて、器用で、人脈も広くて、大概の事はこなせてしまうこの友人の。器用であるが故の不器用さを、見た気がした。

 順平が黙れば、自然無口である凌も口を開かない為沈黙が訪れる。
 それでなくとも影時間の明けていない街は不気味なほどに静かだというのに。
 歩きながら、凌をそれとなく見やる。少し俯き気味に歩く凌は、いつもの表情ながらどこか疲れた様子でもあって。
 何となく凌の視線につられるように目線を落として、その先に。

「凌、おまえ」
「?」

 名前を呼んで、そこから先が言葉にならなかった。
 何をどう言ったらいいか、分からなかった。
 分からないまま目線を上げれば、言葉を止めた順平に凌は不思議そうな顔を向けているばかりで。
 順平は帽子をかぶり直すと、首を振った。

「なんでもねーよ。ちっと疲れてるみてーだなと思ってさ」
「うん…少しは」
「ま、そらそーだわな」

 軽い、いつも通りの口調で言えば凌も普段通りの表情で言葉を返してくる。
 あーあ、などと大袈裟に息を吐きながら頭の後ろで手を組んでみせれば、凌はわずかに笑んだようだった。
 気付かれないように、その手に視線を走らせる。
 下げた目線で、捉えたもの。凌の手のひら。そこに在った、そう古くはないであろう肉刺。
 言葉より何より、凌の想いを雄弁に語るもの。

 好きだと唱えるばかりが、甘い睦言を囁くばかりが、人を想うことではないのだと。
 誰に告げるでも悟らせるでもなく、ただ静かに一人に想いを向けるようなこともあるのだと。
 凌の手のひらに見える痛々しい肉刺を見ながら、そう思った。

 恐らくは、凌の言葉に嘘はないのだろう。
 たまたま順平が見ていないだけで、鈍器以外の武器を使ってはいるのだろう。
 けれど、きっと。
 凌は出来うる限り、鈍器を使っているのだろうとも、思った。
 荒垣のように、軽々とそれを持ち上げることが出来なくとも。
 その手には些か重すぎる武器に、肉刺が出来痛みを覚えようとも。
 見えないけれど確かにそこに在る絆を、手放したくないのだとでも言いたげに。

 不意に凌の手を握って頑張ろうな、と言いたい衝動が込み上げてきたのだけれど。
 それをしてしまえば、自分が凌の手に気付いたのだと明かしてしまうことになる。
 凌が気付かれないことを望んでいる以上、それは出来ない。

「……順平?」
「んや。ちっと顔色悪いんじゃねっかなって。まーでもこの時間だと皆同じように見えるか」
「ああ……そうかも」

 適当に誤魔化して、けれど凌が疲れているらしいのは気になって。
 茶化すように言いながら、布団が恋しいぜー、と零すと。
 凌は、可笑しそうに笑った。


END




わー長っ。
荒垣さん離脱後から主人公が鈍器を使うようになったのは実話です。うちの主人公は鈍器使い状態。
だ、だってだって荒垣さん部屋にさぁ…!!(泪)
ちょっとだけ嬉しかったのと同時に哀しいような気になったのは、荒垣さん離脱後も武器屋にちゃんと鈍器が追加されてったこと。買ってったよチクショウ…!

荒垣さん好きだー。でも主人公も好きだー。
というわけでまたマイナーっぽいカンジの二人に転んでいる自分。
つうか発売して1年後くらいにハマるのどうにかしようよ(笑)

主人公くんの名前、実は凌(シノグ)か朔(ハジメ)で悩んでたんですが結局凌にしたんですよ。
でも今思えば月の満ち欠けが関係してくる話だし、朔でも良かったなあ、とか。
話に大いに絡んできそうな望月くんとか、満月だもんな名前。それと対で朔ってちょっといんじゃね?(笑)
まーでもうちの主人公は凌で。設定変える時に朔の方は使うかも。…ってすでに他にも話書く気満々かい自分。(や、わかんないよわかんないってば)




2007/08/01ブログ小話
(UPDATE.2008/6/19)






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