君は今、どこにいるだろう



◆P3・主人公と神木・1/10(日)・コミュMAX直前◆
主人公名・水沢凌(みずさわしのぐ)



「やあ、君か。こんにちは」

 訪れた神社、その片隅にあるベンチに神木は今日も座っていた。病のせいか風に吹かれただけでも飛ばされてしまいそうな痩身を、薄いシャツに包んで。
 近づいてくる凌に気付くと、いつもと変わらぬ佇まいで穏やかに笑いかけてくる。
 その笑みにつられるように、凌もまた微笑した。

「ちょっと遅れましたけど、あけましておめでとうございます、神木さん」

 言いながら、神木の横に座る。それは、今日という日を神木に預けるという合図。
 何をするでもなく、ただこうして座って話をするだけだ。
 だがその穏やかに過ぎていく時間は、凌にとって確かに居心地のいいものだった。
 話し方も表情も立ち振る舞いも全てが控えめで、今にも消え入りそうな神木が、それでも凌と顔を合わせた時は嬉しそうにする。
 神木が普段どこでどんな風に生活をしているのか、凌は知らない。けれど、向けられる声は、視線は、表情は、押し付けがましくなくそれでいて包み込むようで。凌の知っている人間の他の誰とも違うそれが、単純に好きだった。

「そうか…そういえば、新しい年を迎えたんだったね」
「七草も過ぎちゃってるんで、ちょっと遅めですけど」
「いや、嬉しいよ。ありがとう。それと、僕からもあけましておめでとう」
「はい」

 今年も宜しくお願いします、と。
 言いかけた言葉は喉の奥に飲み込まれてしまった。
 今月末には勝てるかどうか分からない決戦が待っているから、というのが一つ。
 もう一つは、恐らくは先の長くないのだろう神木にこの言葉を送ってもいいのか分からなかったから、だった。
 神木はそんな凌の心境に気付いたのか否か、ふっと笑って。

「何だか、久しぶりだからくすぐったいような気がするよ」
「え?」
「おめでとう、ってね…誰かに言うのが。優しい響きの言葉だね」

 神木の言葉に、こくりと頷く。
 おめでとう、と。告げられるだけの距離にいることがどれだけ幸福か。
 ふと思い出すのは、年末に別れを告げた綾時のことだ。
 面と向かっておめでとうが言いたかったな、と。どこにいるかも分からない綾時に、少しだけ恨みがましくそんな事を考えた。

「…まだ、言えてない人がいる?」
「……そう、ですね。会えなくなってしまったから」

 頷きながら答えて、そのまま俯きぎみになってしまう。
 冬の風に吹かれた落ち葉が、カサカサと音を立てながら足元に転がってきた。
 乾いた、寂しい音だ。
 枯葉は凌の爪先を掠めると、風に吹かれるままどこかに去ってしまった。
 刹那の邂逅と、別れ。
 フラッシュバックする、幾つかの光景。
 この指に触れた人は、いつだって去っていく。見送る背中を、いつからか諦めと嘆息で受け入れてしまうようになった。
 本当は、いつだって。

「寂しい、と思われるのは……不謹慎な言い方かもしれないけど、幸せだね」

 思考を読まれたかのような神木の言葉。
 跳ねた心臓に押されるように顔を上げて、神木の顔を見る。恐らく自分の目は驚きに丸くなっているのだろう。
 だが神木は相変わらず儚げな表情で。凌と目が合うと、微笑した。

「誰かの心にいられるって、ね。君が想うその人も、きっと同じように思っていると思う」
「……俺のせいで、しなくていい思いをしたような人でも、そうでしょうか」
「僕は……君の想う人がどんな人なのか、知らないけど。君にそういう顔をさせるような人が、悪い人だとは思えない。きっと、君を憎んだり恨んだりはしないよ」
「……そう、でしょうか」
「僕がその人の立場なら、そうだと答えるしかないけれど」

 会えないのは、寂しい。
 それが大切な人なら、尚の事。
 指の隙間から零れ落ちた砂のように、別れはどうすることも出来なかった。それでも。

「会えなくなって、寂しい…んですね、俺」
「僕には、そう見えるよ」

 確かめるように、口に出して呟いてみる。
 神木は、一つ頷いてくれた。
 何だか泣きそうな気分になって、それを耐えるようにきゅっと手のひらを握り締めた。

 優しい人ばかりだ、俺の周りにいる人たちは。
 綾時、会えなくなったのは寂しい。だけど。
 俺は、俺を支えてくれる人たちが好きだ。
 その人たちのいる世界を、守りたいって、そう思う。
 お前とはいずれ向き合わなければいけないのかもしれない。
 けど、俺はお前もちゃんと大切だったよ。
 今、一人で寂しがってないかって。不安なんじゃないかって。そんなことを考えてる。俺の中から人間観察をしてたって割には、甘ったれで感情表現の豊かなお前だったから。

 この世界のどこかにいる、君に。
 どうか、泣いていませんように。


END



神木さん好きだー!
っていう感じで。コミュラストは普通に泣けたよーぉぅぅ。
実際プレイしてた時もコミュマックスが一月入ってからだったんでちょっとリンクさせてみたり。
しっかし神木さん、真冬にその薄着はダメだよって何度思ったか……(笑)


2007/12/13 ブログ小話
(UPDATE.2008/6/19)



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