あなたの言葉が嬉しかったから ◆P3・主人公とアリス・時間軸不定◆ ※主人公名は水沢凌(みずさわしのぐ)、ペルソナが具現化&個性、性格ありのパラレル 影時間でも、ましてタルタロスでもない日曜の昼間に、何故か具現化した凌のペルソナの一体、アリス。 何故こんな事が起こったのかと驚き動揺する仲間には悪いと思ったけれど、凌はラウンジから自室へと引き上げていた。 だって、日の光の下で見るアリスは、ただの幼い少女にしか見えなくて。 責められているのではないにせよ、好奇と驚きの目に晒されているのが何だか耐え難かったのだ。 ラウンジを出る時、おいで、とアリスに向かって手を差し伸べた。 素直に手を重ねた、アリスの手のひらは。小さくて、けれど確かに暖かかった。 「しのぐ?」 「……大丈夫だよ」 ベッドに腰掛けて、階下で仲間たちは今頃何を話しているのだろうか、と考えていると。 アリスが心配そうに、覗きこんで来た。 金色の髪に、青い瞳。濃紺のワンピースに、頭には白いリボン。 物語に出てくる少女そのままのような風貌のアリス。 彼女は少し舌足らずな響きで、しのぐ、と呼ぶ。 それは今朝目覚めた時、アリスが凌を揺り起こしたその時からずっとそうだった。 凌の胸元ほどまでしかない、少女、としか言い様のないアリス。 彼女が絶大な力を持つペルソナだなんて、この見目からはきっと想像もつかない。 安心させるように笑いかければ、アリスがひらりと手を伸ばしてくる。 その手を握ってやると、ぎゅうと強く握り返された。 「……嬉しかったの」 「え?」 「しのぐが、家族だって言ってくれたから」 ぽつりと零されたアリスの言葉。 一瞬何を言われたのかと途惑うが、すぐに思い至る。 それは、先日順平と交わしていた会話の中で凌自身が言った言葉だったからだ。 『なーなー、凌って幾つもペルソナ使えんじゃん?』 『うん』 『俺らは一体しか使えないから、呼び出すのも分かりやすいけどさ。お前ってどうやってんの?』 『うーん…? 特に意識してない、けど』 『えええーマジデスカー。ってか呼び出す時に混乱しそうじゃんよ』 『いや、しないよ。皆違うし』 『ふーん? まあそれは俺らにゃ分かんねえ感覚なのかね。あ、じゃあさ』 『?』 『複数のペルソナ宿してるって、どんな感じなんだ?』 『家族と……一緒にいる、かんじかな』 凌の言葉に、順平はやはり分かったような分からなかったような顔をしていたけれど。 それでも、お前にとってペルソナって大事なんだな、と言ってくれた。それさえ分かってもらえれば、充分だった。 ペルソナが大切だと言ったのは、嘘ではない。力があるとかないとか、そういう問題ではなく。 凌にとって、彼らが自分の内側から生まれ出でたものだというのがどこか信じられないほど、穏やかに当たり前にその存在が常に己の傍らにあるもので。 当たり前に傍にあるもの。 そう思い至った瞬間、それを示す言葉は家族以外に見当たらなかったのだ。 ああそうだ、多分きっと。 アリスを呼んだのは、他でもない自分だ。 どうやったかなんて分からなくても、それでも。そう、確信する。 「聞こえてた?」 「うん。あたしたちは、しのぐと一緒だもの」 「嬉しいって、思ってくれた?」 「うん。あたしたちは、皆しのぐが大好きなの。大切なの。だから、家族って言われてすごく嬉しかった」 「アリス」 握られていない方の手を、差し出す。 アリスはすぐに凌の意図を汲み取って、ぎゅうと抱きついてきた。 幼い抱擁は、けれどひどく暖かく、優しいものだった。 ……誰かの、ぬくもりを。 こんな風に何も考えずに他人のぬくもりに触れるのは、いつ以来だろう。 抱きしめているはずなのに、抱きしめられているような気になる。 暖かい。 こんなにも暖かい、ものだった。 忘れていた、考えもしなかった、人の、ぬくもりというものは。 泣きそうになるぐらい、暖かくて優しい。 ゆっくりと、目を閉じる。 アリスの小さな手が、凌の髪を撫でた。 「ありがとう、アリス」 「しのぐ、大好き」 幼い言葉が、胸の内の柔らかな場所をくすぐる。 大好き、だなんて言葉を。言わなくなって、どれくらい経つだろう。 そんな言葉が自分の中にあることすら、忘れていた。 「俺も、だよ」 今はまだ、大好き、とは返せないけれど。 精一杯の想いを込めて、言葉を返す。 凌の言葉に、アリスが嬉しそうに笑う声がした。 END なーんかまた勢いでやっちゃってますけどー! しかもペルソナかよ今度は。 や、でもアリスたんかわえーんですもん。お気に入りなんですもん。 要はまあ、主人公は愛されてるんです。てことですとも。 あー何この勢いに任せた暴走(笑) 2007/08/03 ブログ小話 (UPDATE.2008/6/19) |