Sとの七週間 10/4・瞼の裏の暗闇に世界の終わりの色を見る



 乾いた音。
 呟き。
 悲鳴。
 絶叫。
 慟哭。

 周囲の物音を淡々と聞きながら、凌は動けずにいた。
 言葉もなく、涙を流すでもなく、ただ立っているだけだった。
 確かに心の内は乱れているのに、声にも表情にもそれは表れなかった。
 倒れ伏した背中を見て確かに動揺しているのに、心の裏のどこかが死は当たり前の事だと思っているのを感じた。
 失いたくないと思うのと同時に、仕方ないことだとも思っている自分が居る。
 そんな自分が今は殊更に嫌で、ゆっくりと瞬きをした。
 一瞬闇が訪れ、けれどそれが晴れても何も変わらずに。

 荒垣さん、と。
 声には出さずに唇だけ動かした。
 凌は、仲間達の誰よりも遠くから荒垣を見つめていた。

 彼の世界は、終わってしまった。
 そんな事を考えて、すぐに自身を嫌悪する。
 哀しい。悔しい。苦しい。
 どれも嘘じゃないのに。どうして泣けも取り乱しもしないんだろう。
 銃弾を放ったタカヤより、逝ってしまった荒垣より、号泣している天田より、誰より何より自分自身が嫌いだった。

 俯くと、長く伸ばしている前髪が視界を遮る。
 それでもまだ足りなくて目を伏せた。訪れる暗闇に、どうしようもなく安堵する。
 終わりが、来る。
 よぎったのは、そんな言葉だ。
 終わりが来る。終わってしまった世界。
 二度と届かないもの。

「……荒垣さん」

 ようやく唇から零れた呟きは、仲間達の声に紛れて凌自身の耳にさえ届かなかった。
 これも一つの、世界の終わり。
 瞼の裏の暗闇の中、ゆっくりと遠ざかっていく世界を想う。
 けれど、彼にとっての世界がどんなものであったかなど、分かりようはずがなく。
 それを無性に寂しいと、感じた。



 

 

ヤッテシマイマス。なP3連載。
4も出てるのに3の話ですよ。でも未だに3ってば好き。
金沢的荒主始動です。マイナーなのは知ってる…(涙)

UPDATE/2008.10.04

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