Trick or Treat!



「ミラーンダ! Trick or Treatさ!」

 顔を合わせるなり、挨拶もそこそこに開口一番言われたのは。
 お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、という本日限定の挨拶言葉。
 お化けの、というかもう単なる仮装になってしまったのだろう、ラビの服はパリっとした燕尾服にシルクハット(兎の耳付き)、といういつもとは異なる出で立ちだった。服装に合わせてか、髪型もいつもと異なりフォーマル調にまとめられている。

「はいウサギさん。マシュマロでいいかしら?」

 対するミランダはと言えば、いつも通りの服装だ。
 黒を基調としたワンピース。年齢的に言ってもハロウィンに参加することなど微塵も考えていなかった。
 だから、にっこり笑って可愛らしくラッピングされたお菓子を手渡す。

「あれー? 準備いいなあ」
「一昨日リナリーちゃんと出掛けたでしょ? その時にハロウィン一色の街を見てたら欲しくなっちゃって」
「あー……そっか。だからリナリーがにやにやしてたんか……」
「ラビくん?」
「いやいや、こっちの話」

 何やらぶつぶつ言っていたラビは、しかし急に何か思いついた、という顔をして。
 どうしたのかしら、と不思議に思っていたら突然手を掴まれた。

「な、ミランダは言わねーの?」
「え? 何を?」
「トリーックオアトリィト、さ」
「もうお菓子をねだるような年じゃないのよね、残念ながら」
「なーに言ってんの。お祭りなんだからさ、楽しむってーのが一番だろ?」

 にっこり、と擬音語が聞こえてきそうな勢いのラビは、どうしてだか今日の日の決め台詞をミランダに言わせたいらしい。
 始めは渋っていたミランダも、何だかあまりに言われるので乗ってもいいか、という気分になってきた。
 ここにアレンかリナリー辺りがいたら、ミランダがまんまとラビの口車に乗せられる前に助け舟の一つも出してくれたのかもしれないが。
 今の場所は教団内の普通の廊下ではあるのだが、生憎人影はちらりともなかった。ラビに言わせればラッキー、なのだろうけれど。

「じゃあ…Trick or Treat?」
「ないよ」
「……え?」

 いざ、とばかりに勢い込んで言ったのに、返されたのはそんな素気無い言葉で。
 ぱちり、と瞬きをするミランダを見て、ラビは笑ったまま。

「え、きゃ、ちょ、ラビくん?」
「お菓子、ないからさ」

 強引に、けれど決して乱暴にはならないような仕草でミランダを腕に抱きこんだ。
 何が起こったのか思考が追いつかないミランダは、目を白黒させているばかりで。抵抗しよう、とか引き剥がそう、と言った所まで頭が回らないらしかった。
 うん好都合、とラビが思ったかどうかは分からないが。
 ラビはミランダの目を覗き込むように、顔を近づけて。

「だから、俺にイタズラして?」

 笑いながら、囁いた。



 

 

 


Web拍手掲載期間→2007.10.30 ハロウィン限定拍手でした

 

 

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