【星は流れ、人は去る、けれどこの手は放せない。】




「 なあ、ミランダ。
  アンタは俺を、恨んでいいんだ。
  憎んで、詰って、呪っていい。
  アンタの空を、世界を、切り取って塞いだのは俺なんだから。
  暖かい日向から、有無を言わさず暗がりに引っ張り込んだんだから。
  泣いて、喚いて、罵っていいんだよ。
  ……けど、たった一つ。ただ、一つだけ。
  繋いだ手を離さずにいてくれれば、俺はもう、それだけでいい。 」

 告げた言葉は、本当はもうずっと前から言おうと思っていたことだった。
 言えずに先延ばしにしてきたのは、単純に意気地がなかったからだ。
 本当は、恨まれたくも憎まれたくもない。
 何もかもを捨て去って、ただ選んだ手のひら。その存在。
 嫌わないで、ここにいて、どうか。
 どうか、愛することを許してほしい。
 愛されることまでは望まないから、せめて。愛することだけは、赦してほしい。
 決死の思いで告げた言葉に対する返事は。
 くす、と小さな笑い声から始まった。

「 ねえラビくん。
  私、貴方を恨んだりなんてしないわ。
  だって、取られた手を振り払わなかったことが、答えにならない? 」

 なんて。
 イタズラが成功した子供みたいな顔で。
 握った手は、仄かに暖かかった。
 俺は知ってる。大人の割に泣き虫で落ち込みがちのミランダが、俺の手を選んでくれたその時からもうずっと、泣いていないこと。
 ミランダと反比例するみたいに、俺の涙腺が緩くなりがちだってこと。

「 そんなに泣かないで、ラビくん。
  おめめがうさぎさんみたいになっちゃうわよ? 」

「 ミランダが俺を、呼んでくれるなら。
  もう、ウサギでいいよ俺。 」

「 それじゃあ困るの。
  私が選んだのはうさぎさんじゃなくて、
  ラビくんなんだもの。 」

「 ……うん。 」

 泣かないかわりに、ミランダはふわりと笑う。
 差し出した手を選んでくれた、その時と同じ顔で。
 頭上で流れた星が。まるでミランダの涙みたいだ、と。
 子供のように涙を零しながら、そう思った。


END


 

 



Web拍手掲載期間→2009/8/31〜12/20

ペルセウス流星群が見れなかったので悔し紛れにムックの流星からイメージを派生させて書いた話。
ちょっと変則的な書き方にチャレンジ。

 

 

        閉じる