光明



◆バサラ・上杉軍忍び見習いから見た謙信とかすが◆


 あのひとは、光を纏いながら闇を切り裂いて進むんだ。


 俺は、上杉軍の忍び……の見習いだ。修行中、でも可。
 お仕えするのは諸外国から軍神と畏れられている、上杉謙信様。雇われじゃなく、俺は親の代からずっと上杉家にお仕えしてる。
 まだ修行中だから戦場に出たことのない俺は実際にこの目で拝んだことはないけれど、その戦いぶりは軍神と呼ばれるに相応しいものらしい。圧倒的な強さと速さ、その軍略と知己は誰も及ばないのだ、と。

 その謙信様の隣にいるのが、役職だけなら俺と同じ忍びである、かすがさんだ。
 忍びである、とは言ってもかすがさんは俺みたいな見習いは勿論、俺の師である頭領ともまた一線を画す。実力もそうだし、謙信様への崇拝ぶりもそうだ。
 勿論上杉軍に名を連ねる者は皆謙信様を尊敬しているし、謙信様も配下には心を配って下さっている。
 だけど、あのお二方はそれだけじゃない。
 夫婦とか血縁とか、そういうものは超えた場所にあるみたいな。
 俺は色恋沙汰にはまだ縁がないけど(これからだ、これから)、あの二人が纏う特別な空気は嫌いじゃない。というか、謙信様の穏やかな笑顔と、かすがさんのはにかみながらも嬉しそうで幸せな顔を見てると、どうにも上手くいくといいなあ、と思ってしまう。

 ……うん、まあ、ね。
 忍びと一国の主だ。叶わない恋だなんて目に見えてる。
 だけどさ、だけど、先のことなんて分からないじゃないかって、そう思うのは俺が恋を知らないからなんだろうか。違うよな。だってあんな幸せそうな空気を纏える二人の想いが叶わなくていいなんて、そんな道理ない。
 さすがに謙信様とは話した事ないけど、かすがさんとは何度か会話をしたことがある。
 俺が謙信様の事を聞いた時の、あの表情、言葉、どれをとっても幸せそうで。人があれだけ誰かを想えるなんて、凄いことだ。
 謙信様とは話したことはないけど。でも、あんな優しい顔を、眼差しをかすがさんに向ける人が何も想っていないってことはないと思う。わたくしのつるぎ、って呼び名もそうだ。
 お互いがお互いにとって特別なのに、その手を取れないなんて間違ってるだろ。いやまあ、よく手は握り合ってるけどねあのお二方は。
 それはともかく、俺はあのお二方の恋路が上手くいくように願ってる。俺だけじゃない、そう思ってる人は大勢いる。
 あのお二方が幸せになるためにも、謙信様に天下を獲っていただかなきゃ困るんだ。
 天下を獲った御仁ならば、相手が忍びだろうと農民だろうと商人だろうと文句は言えないだろうって思うから。

 かすがさんは、本当は優しい心根のひとなんだ。
 俺は生まれた時から忍びになることが定められていて、それをどうこう思ったことはないけど。
 一番最初にかすがさんと喋った時の俺は今より小さくて(成長が遅かったんだ、今は標準……より少し小さいくらいだ、と思いたい)、俺を見たかすがさんが少し逡巡したのをよく覚えてる。
 それでも、かすがさんの心は揺るがない。謙信様の為なら。
 その心を痛めて、でも痛みから目を逸らしながら刃を振るう。
 一寸先さえ見えない闇の中でも、自らこそが謙信様の光になれるように、と。
 ならば俺はせめて。
 蛍みたいな小さな光でも、あのお二方の道行きを照らせるようになりたい。

 明日をも知れぬ、今日の中で祈る。
 いつかの未来で、光を掴めるように。


END




オリキャラじゃ ね え か! みたいなね。
忍び見習いくん。年の頃は11〜13くらいかな。
上杉軍には、謙信とかすがの恋を応援し隊とかあると思う。(真顔)
いやむしろ応援したいよ。この二人すきー。
三時間くらい打ってた話を間違えて消去してもて、思い出し思い出しも一回書いた。ので大分短くなってんさーあははー。
何かこう、急に「あのひとは、光を纏いながら闇を切り裂いて進むんだ。」っていう声が聞こえてきて勢いで書いた話。映画の予告な感じで言ってください、主人公くん(笑)
余談だがこの主人公は慶次くんと話が合いそうだ。


2007/11/13 ブログ小話
(UPDATE.2008/6/19)





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