一人きりのお茶会でも



◆歪アリ・女王・アリスを思って◆


 白いテーブルクロスの上に並ぶ、ケーキにクッキーに紅茶。
 苺をふんだんに使ったそれらは、見た目もさることながら味だってそこいらの店では及ばないようなものだ。何故なら。

「ここにアリスがいれば、どんなに楽しいかしら」

 呟いたのは、少女という形容が正しく当てはまる年頃の娘。だが彼女はただの少女ではない。
 彼女はこの城の女王、なのである。
 女王の前に並ぶものは、食事だろうとお菓子だろうと食器だろうと調度品だろうと、全てが一級品でなければならない。それは今女王の前にあるケーキその他諸々も例外ではない。
 だが、そんな見た目にも麗しい菓子その他を目の前にしながら、女王の顔は晴れやかとは言えないものだった。それどころか、どこか不機嫌そうですらある。
 その理由は。

「ああ、折角アリスの分まで用意してるのに」

 だ、そうである。
 よくよく見れば、用意されたケーキもクッキーも紅茶も二人分ある。
 女王の正面に当たる位置には、椅子がもう一つ。だがそこには誰もおらず、空席のままだった。

「猫ばっかりっていうのが、ずるいわ」

 この言葉も、何度口にした事だろう。
 だが、何度言っても言い足りないのだ。だからきっと、明日も同じように呟くだろう。
 二人分のお茶の準備をして、埋まらない席に溜め息を吐いて、届くはずもない独り言を言う。

「ねえアリス…貴方は、ちゃんと皆に愛されてるのよ」

 今でも、変わらずに。
 アリスの名は、存在は、この国の誰にとっても、特別。
 アリスの幸せを、笑顔を、誰もが望んでいる。
 その為にアリスとこの国を繋ぐ扉が閉じているというならば、受け入れよう。寂しくはあるけれど。ちゃっかり着いていった猫が気に食わなくはあるけれど。
 だから。

「いつか笑顔で、お茶しましょうね。アリス」

 呟き、女王は紅茶を口にした。品のいい香りが、ふわりと漂う。
 アリスならきっと、喜んでくれるに違いない。この紅茶も、ケーキも。
 再会がいつになるか、それは分からない。
 だが次はきっと、笑顔を見せてくれるだろうと。女王はそう、疑う事なく思っていた。
 その日が来るまで、毎日二人分のお茶を用意するのだろう。それも悪くない。


「その時は、猫は立ち入り禁止にしてやるんだから」

 ぼそり、付け加えた言葉に。
 アリスの傍らにいる猫がくしゃみをしたかどうかは……定かではない。


END




真エンディング、その後の話みたいな。
フォルダに残ってた食玩コラボ写真から生まれた妄想(笑)ちなみに使用食玩はいちごちゃんとおとぎ食器とまめたまいちごだったハズ。


2007/10/15 ブログ小話
(UPDATE.2008/6/19)






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