【シザーハンズパロ舞台裏】Dグレver.




「なあなあ、ミランダ」

「あらラビ君、お疲れさま。結構濡れてたでしょう、大丈夫?」

「あれぐらい平気だって。オレってば旅から旅の人生よ? 嵐も台風も竜巻も経験したことあるんだからさ」


 おどけて言えば、ミランダは小さく笑い。
 それでも、と控えめに、けれどしっかりした声で言った。


「豊富な経験は風邪をひかない根拠にはならないわ。ちゃんと乾かしてきた?」

「オレも風邪はイヤだから、そこはバッチリさ」

「それならいいの。うるさく言って、ごめんなさいね?」


 首を傾げるようにして告げるミランダは、穏やかな表情で。
 しかし紡がれるのはどこか他人行儀とも言えるものだった。

 出会った当初に比べれば大分打ち解けてきたし、時には先の様に軽口なども言えるようにはなってきたけれど。
 それでも、どうにも横たわる絶対的な距離が、確かにある。
 年齢、経験、性別、理由はどうあれ、違いというものは壁を作ってしまうには充分過ぎるもので。
 仕方がないとは思うし、理解できないことでもない。

 何よりラビ自身、ブックマンという背景事情を背負っている以上強くは言えない。
 壁を作るな、なんて。
 そう、理解はしている。頭では。
 だが、感情までが素直に頷くかと言えば、答えは否だ。


「なーんでそこで謝るかなー」

「……え?」

「忠告ってーのは、多かれ少なかれ相手を思いやるからこそ出るもんだろ? オレは、ミランダからの愛ならいつでもいくらでも大歓迎さー」

「あ、ぃって、ラビ君っ! そういう冗談はやめてちょうだいっていつも……」


 ラビの言葉を理解した瞬間、ミランダは音がしないのが不思議なほどの勢いで赤面した。
 慌ただしく手を振って、何か言い募ろうとすればするほど言葉を見失うらしく視線を泳がせて。
 困惑し混乱しているミランダを見ながら、思う。
 少しでも、少しだけでも、近くにいきたい。
 赦されなくても。
 いつかそれで、彼女を泣かせる事になっても。

 酷い男だよなあ、オレ。
 冷静な自分が、呆れと嘲笑が入り混じった声でそう呟く。
 多くは望まない、だから。
 言い訳の様に考える。
 ワガママで、バカで、ガキで、ごめんな。
 それでもオレは、嬉しかったんだ。
 あの時、芝居の上であろうと言われた、言葉が。


「なあミランダ。さっきの、もっかい言ってくんない?」

「ラビ君、私の話聞いてる……?」

「うん。聞いてっからさ。さっきの」

「もう……さっきって、いつ?」


 聞いてないじゃない、とぶつぶつ言いながらもミランダは諦めたらしくラビの話に乗る。
 一度肩を落として、微苦笑しながら小首を傾げて。
 今なら、この手には煩わしいハサミの装飾などない。
 そっと触れて、抱きしめることも、可能なのに。
 ハサミの手よりもずっと重く暗い枷が、ある。
 けれど、だからこそ聞きたい。
 そう思った。


「ただいま、さ」


 こんな抽象的な言葉で分かってくれるだろうか。
 一度告げて理解されなければ、なんでもないと笑って誤魔化そう。
 逃げ道を作っておいて、言った。

 一瞬訪れる、沈黙。
 瞠目しているミランダに、ああダメかと胸のうちで嘆息した。
 まあ仕方ない。
 元々はこれを聞きたくて話し掛けたのだけれど、随分違う話をしてしまっていたし。
 あれだけのヒントで理解しろという方が無理だとは、ラビ自身分かっていたのだ。


「おかえりなさい、ラビ君」


 で、いいのかしら?
 誤魔化してしまおうと口を開き掛けた矢先に、届いた声。
 にこ、と笑みながらのそれは、まさしくラビが望んでいたもので。
 不覚にも泣きそうになってしまった己を叱咤し、笑顔を返した。
 その表情が今にも泣き出しそうになってしまったことになど、微塵も気付かないまま。


 その声に、言葉に。
 どうしようもなく焦がれ、安心したのだと。
 告げたなら、どんな顔をしてくれる?




END

 

 

 


Web拍手掲載期間→2007.1.4〜2007.2.10

ラビミラフィーバー続行中。
ブックマンなラビは誰相手でも悲恋確定なわけですが。
敢えてリー嬢ではなくミランダさん。(つうかアレンとリナリーのカップルを推しますから自分)

ドジッ娘属性でテンパること多数でトラブル体質なミランダさんなので、
何となく目が放せないなー、とか仕方ねーなあとか思いながら世話焼きしてるうちに情が移ってしまへ。
面倒みてやってる気分だったのに、ふとした瞬間に甘えたりしてる自分に気付いて赤面とかしてしまへ。
お、いいねーえ。青春だ!

 

 

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