【シザーハンズパロ】(アシュルクver.) 「ダメだ、アッシュ」 頬に触れると、ルークがそう言った。 哀しそうな声と、表情で。 それでも、ルークはアッシュを突き放したりしない。 いや、できないのだ。 触れるものを切り裂く、ハサミの手では。 「何が、ダメなんだ」 「だって俺の手は、危ないから」 「お前のその手は、お前がそうなりたいと望んでなったものじゃないだろうが」 「……そうだけど、それでも危ないことに変わりはないだろ」 だから離れてくれよ、とルークは言う。 傷つけたくないからと、淋しそうに笑いながら。 誰より何より優しい心を持ちながら、その手がハサミであるというだけでルークは一人を強いられる。 孤独を抱えて、それが辛くない筈もないのにルークは密やかに笑うのだ。 俺の手はハサミだから、仕方がないと。 それは確かに事実で、どうしようもないことだけれど。 どうにもできないと分かっていて、それでも尚。 言葉に出来ない苛立ちが、アッシュの胸に在った。 嵐のように渦巻く感情は、止められなくて。 「わ、あ、アッシュ、何…っ」 「うるせえ。黙ってろ」 「危ないからって」 「黙ってろって言ったのが聞こえなかったのか?」 凄みを利かせて言えば、ルークは沈黙する。 生きてきた(この場合ルークは人造人間だからその言葉が正しいのかどうかは分からないのだが)年月で言えば、ルークの方がアッシュよりもずっと長いというのに。 幼子と同程度の知識とコミュニケーション能力しかないルークは、アッシュに押されることが多々あった。 今もそうだ。 ルークはアッシュの行動に途惑いながら、それでも黙してジッとしていることしか出来ない。 ハサミの手は危ないからと言いながら、己を抱きしめる腕を振り払えない。 そうすることでアッシュを傷つけるかもしれない、そんな考えも勿論あるのだろうけれど。 何より、どうすればいいのか分からないのだろう。 当然のことながら、ルークの手がアッシュの背を抱き返してくることもない。 「……お前が」 「え?」 「お前が何にも触れられないと言うなら、俺がお前の分まで手を伸ばしてやる」 こんな風に。 言いながら抱きしめる腕に力を込める。 しばらく経って、ルークはぽつりとアッシュの名を呼んだ。 そこに込められたのが是なのか非なのか、一度しか囁かれなかった声からは分からなかったけれど。 躊躇いがちにアッシュの肩にルークの頬が寄せられたから、それだけでいいと思えた。 END |
Web拍手掲載期間→2006.10.26〜2007.01.04 |