神無月の午後



◆バサラ・佐助と幸村と元親・囲碁勝負◆



「あーらら。珍しい取り合わせだね。しかも何、囲碁? ますます珍しい」

 通りかかった縁側で、佐助は珍しいものを見かけてしまった。
 片方は、己が仕える主こと真田幸村。
 その幸村と卓を挟んで向かい合っているのは。

「つうか……鬼の旦那、強いね。一方的じゃんこれ」
「真田も弱かねえがなあ。ちっとばかし、応用力ってのが足んねえな」

 にやり、余裕の笑みを浮かべつつ言うのは、西海の鬼こと長曾我部元親だ。
 幸村はと言えば唸りながら盤面を睨むように見つめている。どうやら長考しているらしい。
 口を挟んだ佐助も、囲碁はそう得意ではないのだが。
 多少なりとも嗜むものが見たならば圧倒的、というかむしろ一方的な勝負だというのが一目で分かるだろう。それ程に、元親の一人勝ち状態だった。
 だが、元親の言葉も嘘ではない。幸村とて、武将としての学を持つ。
 佐助も何度か幸村と打ったことがあるが、そこそこの腕ではあった。……筈だ。

「旦那でコレじゃあ、俺なんか勝負にもなんねーな」
「何だ、お前も指せんのか?」
「いやいや、手慰み程度だよ俺は。最近はずっとご無沙汰だし」

 放っておくとこのまま一勝負、なんてことになりそうでひらひらと手を振る。
 謙遜しているわけではない。佐助の腕も幸村と遜色ない程度なのは事実だ。
 時々の調子によって勝ったり負けたりは入れ替わるが、おそらく幸村の方がやや上だろう。僅差ではあるが。己の力量をちゃんと計れてこその武人である。いや佐助の場合は忍びなのだが。
 己よりも実力はあるだろう幸村が苦戦…いやむしろ惨敗している相手に勝てるとは思えない。

「と……」
「と?」

 唸っていた幸村が、ぼそりと呟く。
 聞き返した佐助の前で、がくりと肩が落ちた。

「投了、でござる……」

 無念、と肩どころか頭を垂れた幸村を見て、まあそうだろうな、と内心で呟いた。
 盤上を見る限り幸村もそこそこ善戦はしたようではあるが、相手の力量がそれを凌駕していたのだ。
 囲碁勝負の軍配は、元親に上がったらしい。

「機と形勢を正しく読めてこその俺ら海賊だからな。戦略ってのは大胆に、かつ柔軟に、だろ」
「ううむ……まだまだ精進が足りなかったか……」
「ま、俺もこの程度じゃ満足してねえけどな? 伊達とは五分だし、毛利には負け越しってかんなぁ」
「何と、正宗殿や毛利殿とも勝負をなさっておられるのか?」
「ああ。島津のじいさんとも今度一戦約束してるしな」

 からりと笑う元親は、噂以上に豪気な性格らしい。
 佐助は関心したように、わずかに瞠目した。
 四国へは幾度か偵察に出向いたことがあるが、重機や鉄砲など今までの合戦にはなかったものを取り入れてあったのを見て驚いたのを思い出す。

「何、鬼の旦那ってばあちこち飛び回ってんね?」
「忍びほど身軽じゃあねえけどな? ま、こういうのも結構な、悪かあねえよな」
「……軽く皮肉ってんのが、まあ何つーか流石だよね」

 一筋縄じゃいかないのは、この戦乱の世を渡り歩く一国の主としてはまあ当然というべきか。
 肩を竦めた佐助を見て、元親は答える代わりににやりと笑った。

「うおぁぁぁ! 負けていられぬうう!!」
「わっ、何旦那! いきなり叫ばないでくれよ」
「文武両道、極めてこそが真の武士(もののふ)! 親方様の為にも、日々精進せねばならぬ!!」
「おーおー、相変わらず熱いねえ。ま、それでこそ真田らしいか」
「無論! 長曾我部殿、次にお相手仕る時には負けませぬ故、ご覚悟を!」

 拳を握り締め、立ち上がった幸村が叫ぶ。慣れ親しんだものとは言え、驚く時には驚くのだ。
 だがそんな幸村にも、元親は鷹揚に手を上げた。

「おうよ。売られた勝負はきっちり買うぜ? いつでもかかってきな」
「感謝致す! しからば某、勝負の結果を親方様に報告する故、失礼仕る! 佐助、後は任せたぞ!」
「は? ちょっと旦那、客人を……って聞いてねえか」

 うおおおお、と猛り叫ぶ声はあっという間に遠のいていった。
 頭は決して悪くないはずなのだが、些か猪突猛進なのが幸村の難点だ。
 まあそれも含めて家臣に支持される要素なのだろうが。佐助もまた然り。
 苦笑しつつ、言い渡された通り元親の相手をするべく向き直る。

「あーあー、煽ってくれちゃってまあ」
「人生一度きりだからな。楽しみは多い方がいいだろ?」
「ま、それには反対しないですけどね。さてじゃあ、一局打ちますか?」
「当然だな。その為のお膳立てなんだからよ」

 そんなこったろうと思ったけどさ。
 と、思いはしつつ口にはしないでおく。
 血生臭くない勝負事というのも悪くないかな、とちらりとでも感じてしまった時点でどんな言い訳も取り繕いも無駄だろう。
 さあ、これ以上は無粋な文句は必要ない。
 久々に手にした碁石の感触を指で楽しみつつ、すうと息を吸って。

「んじゃまあ、お願いします」
「お手柔らかにな」
「……それはこっちのセリフでしょうが」

 秋の空気を楽しみながら、真剣勝負。
 いざ、尋常に。


END




ちかりんとゆっきーとすけ。
…って一番上に打とうとしたけどあんまりかなーと思いやめました。
将棋にしよかなー、と思ったけど囲碁に。だって将棋全然知らんのやもん…(囲碁も別に詳しくないけど、ヒカ碁の影響で多少はね)
ちかりんは使いまくってたら愛着湧いて、武田軍は入りたい軍勢堂々一位なので好き。みたいな。

特に背景は書いてませんが、徳川辺りが天下統一して殆どの武将は死ななかったとかいう平和主義なのだと嬉しいよなーという妄想に依るものです。
みんななかよしだとうれしいじゃないか。(漢字使え)
あとあれだ、荒くれに見えつつ頭もいんだぜ、なちかりんが書きたかった。
ゆっきーも別に頭悪くはないんだぜ、というのは書ききれなかった気がする(笑)

幸村の口調は、難しいんだが何か凄く好き。
つか昔の言葉遣いが好きなんだけどさ。あの下手すると噛みそうなね!
仕る、とか奉る、とかいいよね!
そんなワケで金沢は幸村の一人称「某(それがし)」推奨派。
1の頃って某だったんだよな…アイテムゲット時の「頂戴いたす!」も好きだった。

伊達と元親の囲碁勝負も書きたいけどこの二人似てるから難しいんだよ。
伊達の伊達語もイマイチ掴みづらいし…あうん。




2007/10/11 ブログ小話
(UPDATE.2008/6/19)





        閉じる