【ガーベラ】



 嗚呼、なんて笑えない。
 情けなくて腹立たしくて滑稽で苦々しくて、到底笑えもしない笑い話。
 心を揺らすな、そう呟く自分が居るのに、どうして。
 理屈でも理性でも止められない、そんな想いが存在するのだろう。
 自分のものの筈なのに制御できない。それが悔しくて苦しい。
 だけど、同時にひどく甘い気持ちにもなっているのが分かる。
 幸せかもしれない、なんて錯覚してしまう。

 肩に触れるぬくもりは、人がもたれているのだとは思えないほど軽かった。
 少しでも身動ぎすれば消えてしまうのではないか、なんてバカなことを考えてしまうほどに。

「……ミランダ」

 呼ぶ。
 起こさなければ、そう思いながら発した声は、覚醒を促すどころか殆ど囁きに近い程度の音量でしかなかった。
 自分の心境を如実に表しているようで、思わず開いている手で額を押さえた。
 起きて欲しいなんて微塵も思っちゃいないのだ。あまつさえこの時間がずっと続けばいいとすら思っている自分がいる。

 花に恋した虫のようだ。届かないと分かっていながら、思わずにいられない。
 傷つけると知りながら、手を伸ばさずにいられない。
 なんて傲慢で、愚かな。
 自身を罵りながらラビの唇が紡いだのは、歌だった。
 旅をする途中で知った、恋の歌。
 幼かった自分にはよく意味が分からず、けれど旋律と歌詞だけは確りと覚えていたそれ。
 今なら、歌に込められた想いが分かる。

 どれだけ唄っても紡いでも、届かない、伝わらない、実ってはいけない、想い。
 それでも止められない。溢れて零れて、向かっていく。
 想いを捨てられない自分に、時に己の心に気付いてくれない相手に苛立ちながら。
 ただ、愛を叫び唄う、そんな歌。

 ハマリ過ぎてて笑えねえさ。
 そう苦笑しながら、呟くように唄う。
 ミランダが眠っているからこそ、唄える歌だった。
 眠っていて、気付かないで、……気付いて、ほしい。
 唄う声がほんの僅かに震え、ラビは俯いた。



END


 

 



Web拍手掲載期間→2008/11/20〜2009/4/26

ムック勝手にリスペクト小話。第…何段だろ?
書きやすいんですよねぇ、彼らの曲…
想像力をかきたてられやすいのかも。

 

 

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