だんでらいおん case.extra 「エースー、着替えた、ぞ?」 着替えた、と言いつつシャツのボタンを留めながらリビングにやってきたルフィは、ソファに座るエースを見て首を傾げた。 なんか、ヘンだな。 違和感にソファの前へ回り込むと、エースは背もたれにもたれて転寝していた。 ルフィを待っている間に寝てしまったのだろう。 エースの特技は「いつでもどこでもすぐ眠れる」ことだったりするから。 覗いた寝顔がなんだか幼く見えて、少し笑う。 年齢も性格もどうしたってエースがルフィの「兄」であることは変えようのない事実であるのだが。 エースが時折見せる子供っぽいような部分が、何故か凄く好きだった。 無防備な部分を曝け出されている、というのは信頼されている証のような気がするから。 エースがソファに座り、ルフィが立っているものだから自然と見下ろすことになる。 いつもは自分がエースを見上げているので、それは新鮮な視点だった。 緩む口元をそのままに、ルフィは楽しげに笑う。 常と異なる状況がなんだか楽しく思えて、ついでとばかりに手を伸ばしてエースの頭をそっと撫でた。 エースが自分によくそうしてくるのを真似るように。 「お? エース起きたのか? ……って、わあ!」 撫でている手を、がしりと掴まれた。 起こしたのだろうかと声をかけたが、そのまま腕を引かれて慌てた。 突然の動きに体勢を立て直せず、そのままエースの膝の上に乗ってしまう。 びっくりするだろ、と言おうとして気付いた。 「……寝てやんの」 ルフィの肩に頭を押し付けるようにしながら、エースは未だ寝息を立てていた。 無意識であの動きか、と呆れつつも甘えられているような気がして少し嬉しい。 目の前にあるエースの肩に顎を乗せて、掴まれていない方の手でよしよしと頭を撫でた。 どのくらいの間そうしていただろうか、我に返ったのは携帯の着信音が鳴り響いたからだった。 だがその音は自分の持つものではない。 エースの携帯が鳴っていた。 どこだろうかと音源を探り、それがエースの手元に置いてあるのを見つける。 手を伸ばして掴みあげるとサブディスプレイに表示されていたのは「マルコ」という名だった。 ルフィも知っている、エースの友人である。 少し考えて、ルフィはぱちりとエースの携帯を開いた。 「もしもーし、マルコか?」 『お? その声……ルフィかよい、エースはどうした?』 「今寝てる。急ぎの用か? 起こすか?」 『いや、それなら、』 「うお?」 マルコの声が遠のき、持っていた携帯が指から消えたことに気付く。 声で目が覚めたらしいエースが、携帯を耳にあてていた。 「もしもし? あー、今起きた。で? なんだよ」 そう深くは眠っていなかったせいか、電話の受け答えをするエースの声は確りしたものだった。 寝起き特有のけだるげな調子はその声からは伺えない。 先の動きといい、本当に寝ていたのかと疑ってしまうほどに。 マルコと話すエースの顔を凝視して、けれどルフィはふっと息を吐いてその肩にもたれかかった。 まあ別になんでもいいや、という結論に達したので。 十中八九エースは寝ていただろう、とは思うのだけれど、今は甘えられるのが何となく嬉しくてそれ以上はどうでも良かった。 少し話してから、エースは通話を終えた。 携帯を閉じる音がしたあと、ぎゅうと抱きしめられる。 笑ってエースの背中に手を回せば、慈しむように顔を寄せられた。 頬に髪があたってくすぐったい。 「エース?」 「んー。落ち着くなーと思ってな」 「エースはぎゅーするの好きだよなー」 「なんだ、嫌か?」 「んなわけねえ!」 「そりゃ安心だ。イヤっつわれたらどうしようかと思ったぜ」 答えなんて言わなくても分かってるくせに。 ワザとらしい言い方に少し頬を膨らませて、ルフィはエースの肩にぐりぐりと額を擦り付けた。 エースの笑う声が、耳元に響く。 「エースは、時々イジワルだ」 「男心は複雑なんだっつーこった」 意味分かんねえ、と顔を顰めてエースの髪を軽く引っ張る。 イテェよ、と引っ張り返され、なんだかおかしくなって笑った。つられるようにエースも笑っている。 エースにはああ言ったけれど、ルフィも大概ハグが好きだ。 存在の輪郭を確かめるように腕を回しあっていると、安心する。 互いの存在を感じて、触れられることに、抱きしめ合えることに、涙が出そうなほどに安堵する。 どうしてだろう、気付いた時にはそうだった。 手を繋ぐこともキスすることも、当たり前のようにスキンシップの一部として存在するのだけれど。 それより何より、互いを預けあうようなハグが、好きだ。 「そういやエース」 「なんだ?」 「時間、いいのか?」 「……って、早く言えよ! 今何時……っ、ヤベェ、出るぞルフィ!」 なんで起こさねーんだ、だってエースが気持ち良さそうに寝てたからさあ、頼むからこういう時は起こせって、それにぎゅーされて気持ちよかったし、ああそりゃ仕方ねーか、なんてやり取りをしながらバタバタと玄関に向かう。 第三者が聞いていれば思わず鼻で笑いそうな会話なのだが、本人たちは至って真剣だ。 靴を履き、鍵を閉めて。 何気なくさりげなく、ごく自然な動作でどちらからともなく手を繋いだ。 「よし、行くかルフィ」 「おう!」 さあ、一緒に出かけよう。 END |
一緒に笑おう。 の、続き。 一緒に笑えた、にしたかったのでした。 転生ものは扱い難しいのであまり挑戦したくないのですが、これはやりたかった。 お互い抱きしめ合いたかったから、ハグ好き兄弟。 UPDATE/2010.9.1 閉じる |