!! 注意 !! バンプの「ダンデライオン」にインスパイアされたパラレルです。 ライオンのエースとたんぽぽの精なルフィという破天荒設定です。 あらやだ無理ー、なお方はページを閉じてくださいませ。 だんでらいおん 百獣の王、と呼ばれ恐れられるライオンは、その名に相応しく強く雄々しくありました。 黄金色をしたたてがみは太陽の光を受けてきらきらと光り、どんな獲物の息の音も一撃で仕留める鋭い牙は、ライオンにとって誇りでした。 ですが、その強さがあるからこそ、ライオンはいつもひとりでした。 何もかもを蹴散らす程の強さは、他の動物からはもちろん、同じライオンからも恐れられ忌み嫌われていました。 広いサバンナにいつだってたったひとりのライオンは、それでも寂しいと思ったことはありません。 ひとりで生きられるだけの強さを持っているのだから、自分は寂しさなどとは無縁だと、そう考えていたからです。 強く孤独なライオンの名は、エースと言いました。 ある日のこと、エースはいつもは通らない谷沿いの道を歩いていました。 谷底から吹き上げてくる風が、たてがみを揺らします。 それに少しいい気分になりながら進んでいると、目の前に小さな吊り橋が現れました。 少し迷ってから、エースはその橋を渡ることにしました。 この橋の向こうには、今まで見たことのない景色があるのだと、そこにはもしかしたら、自分の中にある空白のようなものを埋めてくれるものもあるかもしれないと、どこかそんなことを考えながら。 吊り橋は作られてから年期が経っているらしく、そしてまた今は使っているものもいないようでした。 身体の大きなエースが渡ると、張られた縄がギシギシと音を立て、心許なくゆらゆらと揺れます。 谷底からの風は、橋を渡るものを揺り落とそうとでもしているかのように、音を立てて吹きつけてきます。 ですがエースはそれに欠片も動じることはなく、橋を渡りきりました。 橋の向こうには、低い草が生い茂っていました。 身を隠せるような場所もなく、他の動物たちはあまり近寄らないのだろうとすぐに分かります。 エースはゆっくりと歩き、その途中で。 草の緑の中、ぽつんと浮かぶ黄色を見つけました。 近づいてみると、それは小さな花でした。 周囲に同じ種類の花は見当たりません。 一輪きりで揺れる花は、それでも胸を張るようにぴんと茎を伸ばしていました。 「……太陽みたいだ」 温かな陽だまりのような色をした、小さな花に。 エースは思わず、そう呟いていました。 すると。 「おれのことか?」 「……なんだお前」 「おれか? おれはルフィだ!」 花が返事をした、そう思って茫然としたまま、けれどエースは反射的に誰何の言葉を投げていました。 すると花はまたも言葉を返し、そうして花の陰から、ぴょんと小さな子供が飛び出してきました。 子供? と首を傾げよくよく見ると、もう少しだけ自分に近いぐらいに思えました。 ルフィ、と名乗った少年はエースを見上げて、何が嬉しいのかにこにこと笑っています。 今まで他の誰もが、エースにそんな顔を向けたことはありませんでした。 踏めば簡単に潰れてしまいそうな花も、少年も、エースは無視をし続けることが出来ませんでした。 ルフィがエースの手に触れて、聞いてきたのです。 獲物以外で自分に触れてきたのは、ルフィが初めてでした。 「なあ、お前は誰なんだ?」 「おれ、は……エースだ」 「エースか。よろしくな!」 「お前……何してんだ」 「ん? 咲いてる」 ほら、とルフィが両手を広げて示すのは、エースの目を引いた黄色い花です。 エースはその花をまじまじと見つめ、そうか、と頷きました。 ルフィが笑う声を聞きながら、エースはぽつりと言っていました。 それは言おうと思って口に出したのではなく、拾い損ねた言葉が唇からこぼれ落ちたかのように、小さく掠れた声でした。 「おまえ……おれのこと、怖くねェの?」 言葉が落ちてから、エースは自分で言ったことに驚きました。 ですが言ってしまったものをなかったことには出来ません。 驚き硬直し、ルフィと目を合わせることも出来ずただただ黄色い花を眺めていたエースの耳に聞こえてきたのは。 「何もされてねーのに、なんでおれがエースを怖がるんだ?」 心底不思議そうな、ルフィの言葉でした。 ルフィを見れば、エースの言葉の意味を考えているらしく盛大に顔を顰めて首を傾げています。 その目には畏怖など少しもありませんでした。 風が吹き抜けます。 黄色い花が、頷くように揺れるのを見ながら、エースは胸の内に今まで抱いたこともないような感情が湧きあがってくるのを感じていました。 温かくて、けれど逆らえないほどに大きい、波のような何かで満たされていくような心地は、初めてのことでした。 飲み込まれていくような感覚に不安を覚えない自分は、一体どうしたのだろうとどこか冷静な自分が思っていることもまた、事実ではありましたが。 それを凌駕するほどの勢いで胸の内が温かくなっていくのを感じたエースは、小さく俯いてしまいました。 下を向いた拍子に、ぽとりと何かが落ちました。 一つだけではなく、ぽとぽとと、幾つも零れ落ちてきます。 一体何だろう、と不思議に思いながら落ちてくる場所、自分の顔に当てた手が、温かいものに触れる感触がしました。 少し遅れて、落ちてくるものが涙なのだとようやくエースは気付けました。 どうして涙が零れるのか、それはエースには分かりません。 ですが、溢れた気持ちが関係しているのだろう事だけは、なんとなく分かります。 胸の内に湧いた温かな気持ち同様に、濡れた頬が温かい事も。 そうしてそのどちらもが、ルフィのくれたものだという事も。 「エース? どうかしたのか?」 親しげに呼ばれる名は耳に心地よく、それがますます胸の内に溢れていくようでした。 おれはこの声をまもりたい、と。そう考えた自分に気付きエースは目を丸くします。 何かを守る、などということは一度もしたことがなかったからです。 けれどそれは、驚きよりもごく自然に芽生え、違和感なくエースの中に居座りました。 もっと呼んでいてほしい。そのためにまもるのだ、と。 静かに決意したエースは顔を上げて、ルフィに笑顔を向けました。 それは今までひとりだったライオンが、孤独ではなくなった瞬間でした。 |
そして二つの命は出会った。 UPDATE/2010.7.31 閉じる |