お前にとってのおれって、一体なんなんだ?



 ……そう聞くのは、ルール違反か?





  
 答えろよ。







 熱を共有するようになったのは、いつからだったか。

 きっかけは多分、酔った勢いとかふざけ半分とか、そんなんだったような気がする。

 それはそれでサイテーっちゃサイテーなんだけどな。




 ぼんやり考えながら、紫煙を吐き出した。

「……煙たい、サンジ」

「なんだよ、起きてたのか」

「目ぇ覚めただけだ。も少し寝る」

 起き抜けらしく眠たそうな声で、ルフィは答えた。

 体勢を変えるべく動いた拍子に、申し訳程度にかけられていた毛布が肩から滑り落ちる。

 強大な力を持っているとはとても信じられない、まだ幼さを残した背中と首筋と。

 晒されたそれがどうにも寒そうで、サンジは知らず眉間に皺を寄せていた。



「ちゃんとかけてろよ、じゃなきゃ服着ろ」

「寒くねーし」

「見てる方が寒いんだっつの」

 サンジの言葉に、ルフィはサンジは心配性だなぁなどと呟きながら毛布を被り直した。

 やっぱ、床は身体疲れるよな。

「サンジ」

 かと言ってベッドなんざねーしな、この船じゃ……

 あることはあるのだが、生憎女性専用だったりする。

「サンジ、聞いてっか?」

「お? ああ、悪い、聞いてなかった」

「膝、貸せよ。枕にする」

「…………」

 膝枕をしろ、と言いたいらしいのだが。

 こう、何て言うか、もう少し言い方があるだろうがよ……

 頭を抱えたくなる気分で、けれど指先でこめかみを押さえるに留めた。

 そうこうしているうちに、ルフィはもぞもぞと移動してきて。

 こてん、とサンジの脚を枕にしてしまった。



「オイ、おれのが朝早いんだぞ? 分かってんのか?」

「知ってる……起こしていいからさ……」

「ルフィ?」

「眠……」

 ルフィは言い終わらないうちに、すかー…と寝息を立て始めた。

 すっかりペースを狂わされて、サンジは思わず溜め息を吐いてしまう。

「人を枕にして、随分いい気だな、オイ」

 苦笑しながら、呟いてみる。届かないとは知りながら。

 寝入っているルフィの髪に、そっと指を絡ませてみる。

 存外と柔らかな感触の髪は、触れていて心地良い。



「……何、やってんだかなぁ……?」

 なんだかこの構図は、傍から見れば恋人同士のように見えるんだろうな、と。そんなことを考えて。

 サンジは口元をふっと歪めた。それは単なる笑みではなく、自嘲であったのだが。








 この関係には、




 名前が




 ない。






 どれだけ身体を重ねていても、そこには何もない。

 ぬくもりを求めて抱き締めても、その傍から熱が失われていく。そんな感覚。

 切なくて、いたたまれなくて、けれど何よりも愛しい。

 叫びたくて堪らないのに、喉が塞がれていて声が出ない。

 ただ一言、言えばいい。

 言えば何か、変わるかもしれない。

 けれど。

「言えるわけねえよなぁ……」

 言えるわけがない。

 口にして、余計にその思いが強くなる。



 伝えて、均衡が崩れることを恐れているなんて。

 一体いつから、こんな臆病になったのだろう。

 今まで、知らなかった。

 伝えたくて、伝えられない思いがあるなんてこと。

 本気の思いは、こんなにも苦しいということ。



「あ〜あ。情けねー」

 言って、サンジはくしゃくしゃと己の髪をかき乱した。

 言えない言葉は、喉に引っ掛かり続けたまま。

 吐き出せもせず、飲み込むこともできず。

 聞きたくて、聞けなくて。

 一度口にしてしまえば、それは拍子抜けするほど簡単なことかもしれない。

 それでも、今はまだ、聞けない。

 聞ける日が来るのか、それも分からない。

 ただ、今はもう少しこのままで。曖昧な熱を抱え込んで、それが苦しくとも。

 この熱を手放す気には、なれない。





 それでも。

 おれが何も言わずともお前がこの関係を続けてくれるのは。

 お前が、俺のことを傍に置いてもいいと。

 おれがお前に感じてるように、お前もおれの熱を少しは心地良いと思ってくれているからだと。

 そう自惚れるくらいは、許してくれるよな?





「なぁ……答えろよ」






END

 

 

情けないサンジ君ここに極まれり、でした。
いつもと変わらないっつったらそうなんですが(笑)
本気になんて死んでもならない、の逆ヴァージョンぽくなりました。
しかしなんだか私の書くワンピ話はこういう展開多いよな…
した後の話とか、ルフィが寝てるとか。
ワンパな脳味噌なんだな、つまり……(泪)

UPDATE/2002.10.24

 

 

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