海賊王になる、とか。
メシを満足いくまで食いたい、とか。
シャンクスにいつかこの帽子を返すんだ、とか。
そういう風に、本気で言えることは結構あるけど。
そういう風に、本気になっちまったことは結構多いけど。
この気持ちは。
この気持ちだけは。
今までとは違うから、今までと同じようには扱わない。
決めた。
今、決めた。
他の誰でもないおれ自身が、おれ自身に対して、今、決めた。
本気になんて死んでもならない
この気持ちを自覚したのがいつだったかなんて、もう覚えちゃいない。
あの時だったかなと思い当たる場面もあるような気もするし、会った一番最初からそうだったと言われればそんな気もする。
要するに、酷く曖昧っつーことだ。
分かるのは、とりあえずそれだけだ。
太陽の下にいるとキラキラ光るみたいで綺麗な髪の色とか。
アイツが求める奇跡の海もこんな色なのかな、と思わせるような澄んだ青色の瞳とか。
水仕事をしているとは思えないほど整った手とか。
細くて、長くて、でも繊細なばかりじゃない指とか。
四六時中銜えてるタバコはいつも決まった銘柄で、切れると機嫌が悪くなるとか。
だから、いつも次の港までの日数を聞いて、計算して買い置きしてあるとか。
クールビューティーと見せかけて、でも女と珍しい食材には目がないとか。
何だかんだ文句言いながらも、何か食べたいと言えば結局何か作ってくれるとか。
笑った時の顔が、案外ガキくせーとか。
オールブルーの話になると、嬉しそうに嬉しそうに、おれのことを普段ガキだガキだとバカにするくせして自分だってよっぽど子供みたいな表情で話すとか。
まだまだまだまだあるけど、そういう一つ一つをおれは見てきたし、そういう一つ一つをおれはいいなと思ってる。
最初こそ何か食いたくてしょっちゅうキッチンに入り浸ってたけど、最近じゃアイツの側にいたいからそう言ってる。もちろん、何か食いたいってのも嘘じゃねーけど。
だってさ、うれしーんだ。
アイツがおれと同じ部屋にいて、
同じ空気吸って、
文句言いながらもおれを見てくれて、
おれと話してくれて、
おれのことを考えてくれて、
最後にはやっぱりおれのために何か作ってくれたりして。
そんな束の間が、おれにとってはスッゲー嬉しい。
その間だけは、サンジはおれのもんだから。
その間だけは、サンジの思考に居座れるから。
だから、嬉しい。
だってさ。
おれはもうアイツでいっぱいなのに、アイツは違うんだ。
アイツの中には、
オールブルーがあって、
タバコがあって、
料理があって、
女があって、
食材があって、
バラティエのことがあって、
おっさんのことがあって、
思い出があって、
他にもたくさん、あってあってあってあって。
そのたくさんの中にはおれもいるんだろうけど、でも、それは欠片にすぎない。
サンジはたくさんの欠片を抱えて、生きてる。
そのたくさんの欠片が、サンジを構成してる。
だからおれはその欠片を否定できない。
それがなくなったらサンジがサンジじゃなくなるから。
でも、ズルイと思う。
おれはこんなにアイツでいっぱいなのにって、やっぱり思っちまう。
…………
バカだな、おれ。
分かってるんだ。
おれがバカなことぐらい。
でもおれがバカなら、サンジもバカなんだ。
変に気が回るくせして、おれの気持ちに気付かないから。
アイツはおれをよくバカだガキだ鈍感だって言うけど、おれはサンジほどじゃないと思う。
少なくともおれは自分の感情を理解してるから。
…………
あーあ。
こうしてる今だって、アイツはナミに愛想ふりまきながら蜜柑の木の世話なんかしてやんの。
けっ、バーカバーカ。
……………………
…違うか。
やっぱり、バカはおれか。
俺は海賊王になるのに。
約束を果たさなきゃなんねーのに。
余所見なんかしてらんねーのに。
それでもおれは、一度見つけちまった感情を見て見ぬフリなんてできねーもんだから。
この思いも引き連れて、先へ進むしかないんだろな。
だから、決めた。
一つ、でも絶対に破らない誓いを、己に立てた。
おれはアイツに、本気にならない。
例えば、もし、まぁありえない話だけどアイツがおれの方を見てくれたとしても。
アイツを本気で好きになんて、死んでもならない。
〜Fin〜