明日の話(さりゆくひと)






 別れの予感が、じわりと指を這う。

 離れていくことに気付いていながら気付かないフリをし続けるおれたちは、

 誰かの目には滑稽に映るだろうか。

 共に過ごした日々をこの上なく愛しく思うのと同じ心で、

 近く訪れるであろうその瞬間にはきっと後悔しないのだろうとも思う。

 いっそ薄情な奴だと詰られ責められれば、もっと違う選択肢を掴めたのだろうか。

 明日の話が出来ないおれに、お前は少しだけ困ったような顔をして。

 その手を握ろうとして、震える指に気付いてやめた。

 褒められるようなことなんて、殆どしてこなかった、おれだが。

 たった一つ、誇れることがある。

 ……おまえと、明日の話が出来て、よかった。






 

 

遺す方と遺された方、どちらがより辛いかなんて聞かないでほしい。
きっと、寂しいのはどちらもが。

UPDATE/2010.2.16


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