【シュガシュガルーンパロ】
(バニラ=天国)






「人間ってふっしぎだよなぁ〜」


 魔法も使えないのに、なんで幾つもハートが生み出せるんだろ。
 俺たちには一つしかないのに。
 ハートは唯一で、絶対。
 それがハートってもんなのに。

 けど。

 ころん、と手のひらに転がる、ハート。
 ピンク色のそれは、今日ピックアップしてきたばかりだ。
 ようやく手に入れた、大事な大事なハート。
 天国の手の上で、きらきらと煌いている。


「キレイ……なんだよなあ、やっぱし」


 手にしたハートは、キレイだった。
 ハートは、決して大きくはない。
 天国の手のひらに簡単に乗ってしまうほどだ。
 それでも。
 その中に詰まっているのは、天国に向けられたキラキラした想いだ。
 キレイだと感じるのは、そこに自分への想いが込められているからなのだろうか。

 手の中のハートを握り締めて、ベッドへダイブする。
 ぼふん、と音がして、お気に入りのベッドは天国の体を柔らかく受けとめてくれた。
 ふかふかの羽根布団、柔らかな枕。
 どれもこれもお気に入りばかりのそれは、けれど今の天国の心を慰めてはくれなかった。

 ハートを取ってしまう、ということはその気持ちを奪ってしまうのと同じことだ。
 つまり、天国へ向けられていたこのピンクのハートのような気持ち…恋は、もう失われた。
 それが、どうしてだか淋しい。

 もう今までのような目で見つめられることも、言葉をかわすことも、全部全部なくなってしまった。
 悲しくはないけれど、淋しいのだ。
 大好きなお菓子を全部食べ終えてしまったかのような、そんな気分。


「ピンク色のハート…もっと集めたら嬉しくなんのかな?」


 呟いて、ハートを天井にかざす。
 部屋を灯す優しいオレンジ色の光に照らされて尚、ハートはキレイなピンク色に輝いていた。
 きらきら、音がしそうなほどに。
 それをジッと見つめていると、淋しいのと同時にやっぱり嬉しくもなる。

 ようやく手に入れたハート。
 どきどきキラキラ、天国にだけ向けられたピンク色。
 これは、俺の。

 もっともっとこの色が見たいから、明日からはもっともっと頑張ろう。
 今夜はこのピンクを枕元に置いて、いい夢が見られるように願おう。

 そんなことを思いながら、天国は部屋の明かりを消した。
 窓の外の月明かりが、優しく輝いていた。



END



 

 

 


Web拍手掲載期間→2006.1.19〜2006.6.12

 

 

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