流星 見つけた線路は、赤茶の錆で覆われていた。 枕木は朽ち、敷かれた砂利の間から雑草が顔を覗かせている。 名前も分からない、小さな花が咲いていた。 大分前に廃線になった線路なのだろう。 天国はそれをやけに気に入った様子だった。 どうせ宛てのない道行きだ。 どこへ続くのか分からない線路の上を歩いていくことにした。 電車が来る様子はおろか、人影も見当たらない。 一歩進むごとに、じゃりじゃりと音がする。 裸足の足に石の冷たく固い感触は、強すぎる刺激のようにも感じられた。 足はとうに汚れきり、救いと言えば放置されているらしい線路には怪我をするような危険なものが捨てられていないということだろう。 「天国、足平気か?」 「ん。俺は打たれ強いかんな。それ言ったらみゃあのが心配だけどな俺」 「なめんな。昔も今もこれからも、俺はお前と渡り合ってやんだからよ」 「……そうだな」 過去と現在と未来。 ちらついた影に、天国が少し淋しそうに笑う。 天国は、以前のようには笑わなくなった。 笑えなくなった、のかもしれない。 どちらかは御柳には分からない。 それは、天国だけが抱えられる真実であり、暴くことは出来ない。 御柳の前には、ただ事実として天国の笑顔が変わってしまったことがあるだけだ。 前は、出会った当初は明るい中にも強さがある、そんな表情を見せていた天国だけれど。 ここ最近は、もうずっとどこか儚いような淋しげな表情ばかりだ。 それでも。 「あ、今」 「どした?」 「星。流れた」 言いながら天国の指が天を指す。 足と同様に、薄汚れた掌。 御柳は思わず、手を伸ばしていた。 重ねた手は、暖かい。 意味なく泣けてしまいそうなほど、天国の手は暖かかった。 掌を重ね、指を絡める。 繋がれた手に依存はないらしかった。 そのまま、空を見上げる天国の為に先ほどまでより速度を落として歩き始める。 天国がどれだけ淋しそうでも、哀しそうでも。 それでも、御柳は天国の手を放せなかった。 人も、物も、地位も、全てを投げ打ってでも。 この手が繋がれているなら、天国の心が傍らにあるなら、それでいいと思えた。 繋いだ手が微かに震えている。 天を仰ぐ天国の顔は見えない。 けれど、泣いているのだと分かった。 声もなく、静かに涙を。 絡めた指は以前に比べれば細く、力なく御柳の手に委ねられていた。 御柳の手も同様だろう。 筋肉は使わなければ衰えていく。 きっと昔のようなホームランなど、打てはしない。 それだけは、少し残念だと思えた。 白いボールが青空を切り裂くように飛んでいくのを見るのは、掛け値なしに気持ち良かったし楽しかった。 それでも全てを捨てて、御柳が選んだのは。 「天国」 「……何」 「愛してっから」 「俺も、だっつのみやばか」 震える声は、それでも返された。 誰が悪いのでもない。 ただ震える心が寄り添い合うことを望んだ。 預けられていた指が、意思を持って御柳の手を握り返す。 星が願いを叶えるというのなら。 俺が流している涙も、天国が零している涙も、全部星になればいい。 この空を埋め尽くすぐらいの流星なら、きっと。 汚れたまま重なり合う掌と心が、決して離れぬようにという願いくらい。 叶えてくれるだろう? 繋いだ手は、離せない。 END |
Web拍手掲載期間→2007.1.4〜2007.2.10 ムックの「流星」からどわーっとイメージ湧いて2時間くらいで書きました。 遅筆金沢にしては快挙! この歌ホント凄い。 物語のエンディングみたいな絵が、すらすらっと脳に浮かんだ。 星空の下、手を繋いで人からも物からも、或いは自分からも逃げて歩く二人。 確かなのは繋いだ手と、心だけ。 自分からも逃げて、それでも尚信じられるのは寄りそう心だけ。 善も悪もなく、全ては繋いだ手だけ。 …ってちょっとICOみたいになったが(笑) 機会があれば聴いてみてください、ムックの「流星」いっすよ。 |