【ラビュー・ラビュー】 御柳の恋人は照れ屋だ。 そりゃもう、人前で手を繋ぐってだけでも躊躇うほど。 けれどそれは、御柳にしてみれば腑に落ちない。 というか、納得できない。 御柳としては、世界の中心で「これが俺の恋人だー!!」なんて青春まっしぐらで叫んでしまっても全然構わないほどに惚れ込んでいるというのに。 たかだか見知らぬ人間の目線がある、それだけのことで恋人の提案に躊躇うなんて悔しいし許せないのだ。 俺だけ見てればそれでいーじゃん、そう思うし、自分はそう思っている、と胸を張って言える。 この間なんて、それでつい熱くなってしまい恋人を大層怒らせてしまった。 まあ怒らせたというより、盛大に照れさせ半泣きにさせてしまった、と言う方が正しいのだけれども。 でもあん時の天国、怒ってるってーか何かちょっと嬉しそうだったよなー…… 結局強引に押しきった形で、手を繋ぐことはできた。 というか、色々といたたまれなくなったらしい天国が御柳の手を引っ掴んでその場を逃げるように後にしたのだ。 耳まで真っ赤にした天国の手は、やっぱり暖かくて。 触れ合うことは、大切なコミュニケーションの一つだ、とそう思う。 好きで好きで、どうしても触れたくなる。 それに。 御柳は知っている。 照れ屋で素直じゃない恋人が、それでも触れ合うことが好きだということを。 本当に心の奥底から厭だと思うことなら、譲歩などしてくれる筈がないのだ。 天国との付き合いはそう長くはないけれど、その性格は熟知していた。だから、言い切れる。 「みゃーあー? 風呂出たぞー」 「おー」 「お前も何か飲むー?」 「んじゃポカリ」 「分かったー」 すっかり勝手知ったる他人の家状態、だ。 天国が冷蔵庫を開閉している音や、グラスが擦れる音が聞こえてくるのが何やら嬉しくて仕方ない。 タオルを頭に被せたままリビングに顔を覗かせた天国の姿を視界に認めると、自然に口元が綻んだ。 「なーに笑ってんだよ」 「や、湯上りってセクシーだよなーって」 「親父かお前は」 「好きな人間にはスケベになってナンボっしょ!」 「……それを大声で主張するのもどうかと思うぞ」 呆れたような顔をしつつ、天国はペットボトルからポカリをグラスに注いで。 手渡されたグラスは、指先にひんやりと触れた。 御柳はそれを一息で飲み干すと、タオルでわしゃわしゃと頭を拭く天国を観察するように見つめる。 白いとは言い切れない、けれど健康的な色をした肌。そこに僅かに散る水滴が、何やら悩ましげで。 女のように柔らかくはないけれど、その弾力は御柳の好むところで。 触りてーなあ、そう思ったのでグラスを置いて天国の腕を掴む。 「何?」 「拭いてやんよ。恋人っぽいじゃん、そういうの?」 「しゃーねえから拭かせてやるよっ」 「ありがたき幸せー」 投げられたタオルを受けとめ、天国の後ろに座る。 ちらりと見えた横顔は、少し照れたようにはしていたものの、嬉しそうで。 俺ってばやっぱ、愛されてんじゃん。 なんて思ってしまった。 何となく幸せを噛み締めて無言のまま、天国の髪についた水滴を拭って行く。 乱暴にならないように、そっと優しく。 くすぐったいのだろう、天国が小さく笑い声をあげた。 「もちっと力入れてもいいって」 「俺がやーだ。乱暴になんか出来ねえもん」 「だっから、くすぐったいっつのー!」 「天国は敏感だからなー」 「指の動きがエロいー!」 けらけらと、とうとう身を捩って笑い出すのに御柳はその肩を抱きとめた。 が、瞬間。やばい、と顔を顰める。 風呂上がりで火照った体は、どきりとするほど熱かった。 誘発されて、熱くなりそうなほどに。 そんな御柳の葛藤を余所に、天国は無防備に体重を預けてきたり何かして。 いとも簡単に跳ね上がる己の鼓動に、ああもう情けねー俺、と頭を抱えたくなってしまった。 首を傾けて、天国が御柳の顔を覗き込んで来る。 「なー、みゃーあ?」 「今は駄目。止まんなくなるっしょ」 キスしたいかも、な誘惑に。 そりゃもうぐらぐら来ちゃったり何かしたわけですが。 まだ夕飯も食べてないし大体この後見たいテレビがあるからとか何とか言ってたのはお前だろーよ、なあ忘れたワケじゃねーんだろ? 言いたいことは色々あったけれど、とりあえず苦笑して言ってやるにとどめる。 冗談混じりで、けれど続く言葉は喉の奥に飲み込まれてしまった。 目の前で、天国が何やら哀しげな目なぞをしてくれたそのお陰で。 それはもう、叱られてしゅーんとした子犬もかくや、な目で、表情で。 うああああ、もう!! 何俺、愛されちゃってんじゃーん、とか余裕で言えたり何かしないっつの!! だって俺、天国んこと好きなわけよ? 絶好調陥落されまくりなわけなのよ? ちっくしょ、人んことかき乱しやがって……大好きだっつの!! その後どうなったかは、神のみぞ知る、ってことで。 END |
Web拍手掲載期間→2005.4.30〜8.27 |