【ラビュー・ラビュー】 「あーまくにー」 語尾にハートマークが二つか三つくっついているような、弾んだ声で呼ばれる。 嬉しそうな幸せそうな、何ともまあ甘ったるい声音。 それが自分に一身に向けられているのが、嬉しいやら気恥ずかしいやら。 長身に整った容姿、良くも悪くも人目を引く雰囲気。 そんなものを惜しげもなく併せ持つ、御柳芭唐という男。 天はニ物を与えずというが、四物や五物なら与えるもんなんだなあ、と。彼を見た最初に思ってしまったのが、今では何やら懐かしく思える。 その、四物も五物も与えられた男は、何故だか知らないが天国に夢中である。 メロメロもいいところである。 振り向くのが厭だなあ、などと思いつつも声のした方に顔を向けた。 ひらひら、と手を振りながら御柳が近づいてくる。 それはもう、普段なら絶対に見せない子供っぽいような満面の笑顔で以ってして。 「うーわ、バカっぽい顔」 「ひっで! 顔見て最初に言うのがそれかよ」 「事実を言ったまでだ、事実を」 「天国ってホンット、容赦ねーよなー」 「お前なんぞに容赦してたまるか」 調子に乗るだけだろが、と言い切ってやれば御柳は楽しげに笑う。 これだから惚れたんだって、などと呟いたのを耳にしてしまい天国は思わず顔を顰めていた。 御柳に対する態度を改めるべきか否か、一瞬悩んですぐに今更態度を変えるなんざ面倒だという意見に落ち着いた。 第一、ちょっとやそっとのことで御柳が動揺するとは思えない。 まあつまりは二人が二人して「イイ性格」であるからして今の関係は成り立っているようなものなのだ。 互いが互いの腕に爆弾を抱えて、それでも歩み寄り肩を並べている。 …にしたって、なんで俺かね。 そんで俺も何うっかり、隣りを許容しちゃってるかね。 機嫌よさげにガムを膨らませる御柳を横目にしつつ、そんなことを思う。 御柳の容姿なら、立っているだけでも引く手数多だろうに。 何故彼が選んだのが自分だったのか。 そして自分も何故それを拒否せずに、こうしているのか。 なんて。 自問するフリをしてみるのは、いつものことだ。 小難しい色々は差し置いて、隣りをあるく理由なんてただ一つしかない。 好きだから、それだけのこと。 単純明快でいて、気付くのが難しいこと。 好き、に理由なんてないんだけどさ。 言ってなんかやんねー、調子乗るから。 「なー天国、手ぇ繋がね?」 「えっ……」 御柳の言動が唐突なのはいつものことなのだけれど。 天国は思わず、返す言葉に窮した。 何故かって、ここは天下の公道で。 人がいない、もしくは少ないならまだしも、駅に続く大通りなのでそれは即ちそこそこ人通りがあるということで。 そこで手を繋ぐ、というのはどうにも恥ずかしい、と。 小学生くらいならまだしも、身長のある学ラン高校生が二人して手を繋ぐという構図はどう考えても人目を引くだろうし。 ただでさえみゃあの奴、視線集めてるし(悔しいことに主に女性陣の)。 でもキッパリ断るなんてしたら、コイツ拗ねるか怒るかして面倒なんだろうなあ。 ていうか、さ。 まあ確かに恋人だよ、俺らは。俺らの関係ってやつは。 でもさ、別にこう、いちゃいちゃとか、そーゆーのじゃないじゃん? 今までもそうだったじゃん? なのにナンデいきなり「手を繋ぐ」なわけだよ。 一瞬で、色々な事が脳内を駆け巡った。 まあその考えはどうあれ、逡巡してしまったのは紛れもない事実で。 刹那の躊躇に、御柳は面白くなさげに眉を上げた。 「天国、ちっっとも分かってねー!!」 「んな、何がだよ。っつか、いきなり大声出すなっつの」 「いいや、ここは譲れねーんだよ! いいかお前、手繋ぎだぞ手繋ぎ。この行為の重要さをお前はちっとも理解してないっしょ!」 「だ、からおまっ、声がデカイ……っ」 突然声を荒げた御柳に、周囲の人間が何事かと注目する。 集まった視線がやりきれなくて、天国は何とか御柳を宥めようとしたがどうやら何がしかの地雷を踏んでしまったらしく、それから延々と「恋人同士の手繋ぎ」について説かれたのだった。 こんなことなら大人しく手を差し出せばよかった、と。 うんざりぐったりしながら、天国は思ったのだった。 Love you・Love you! END |
えっらい長いこと拍手に置いてありましたこの話。 元ネタは歌です。 ってわざわざ書かなくてもいいぐらい同人界じゃ有名かも。 ええはい、ポルグラの曲ですとも。 有名歌を元ネタに書くのは緊張するのですが、これはすんなり書けた記憶が。 御柳Ver.もらぶらぶばかっぷるです(笑) Web拍手掲載期間→2005.4.30〜8.27 |