【ICO イコ−霧の城−パロ】 (イコ=天国、ヨルダ=司馬) ぶつり、と頭上からイヤな音がして。 見上げたそこには、切れた鎖。 元々あんな細い鎖でこんな大きな鉄製の鳥篭を吊るしていることがおかしかったのだ。 そこに天国が飛び乗ったことで、危うい所で保たれていたバランスが崩れたのだろう。 どちらにしろ鳥篭が落ちるのは時間の問題だったのだろうが。 静寂は一瞬。 宙に放たれた鳥篭は、重力に従って落下を始めた。 ひゅう、と風が耳元で鳴る。 鳥篭の中の人に、掴まれと叫んだのを覚えている。 天国自身も、振り落とされないように鳥篭のてっぺんにぎゅうとしがみついて。 その後は、何がなんだか分からなくなった。 鳥篭は派手な音を立てて地面に落下し、しがみついていた天国はその衝撃に耐え切れず振り落とされる。 空中で何とか受け身を取ろうともがいたが、元々が無茶苦茶な体勢だったからかそれは上手くいかず。 強かに背中を打ちつけることになった天国は、暫く仰向けに倒れたまま動けずにいた。 「……ぅ、く……」 意識が遠のきそうになる。 歯を食いしばって、喉の奥で呻いて、何とか薄れようとする意識を手探りで繋ぎとめた。 落ちたのが天国だけならば、そのまま意識を手放していただろうけれど。 今は違う。 自分以外の存在がある。 だから、意識を失うわけにはいかなかった。 体がバラバラになりそうな、そんな気がした。 指先が痺れている。 ぎゅうと目を閉じ、息すら止めて。 痛みが去るのを、ひたすら待った。 やがて痛みが薄れ、ようやく体を動かせるようになる。 それでも急に動くことは出来ず、天国はのろのろと体を起こした。 見やるのは、落ちた鳥篭だ。 中にいた人は、無事だろうか。 鳥篭は横倒しになっていた。 頑丈に作られていたのか、粉々になっていることはない。 それでも落ちた衝撃を物語るかのように、鉄で出来た柵のあちこちがひしゃげ曲がっていた。 「あ……」 吐息のような声が、唇を割って出ていた。 倒れた鳥篭の中から、人が出てきた。 大きく開いた柵の隙間からするりと、やけに身軽な動作で。 とん、と軽い足音に天国は目を瞬く。 それは殆ど体重を感じさせないような動きだったから。 蒼い人は、白い服を着ていた。 ぞくりとするような容貌の美しさも相俟って、その人が人間ではないような気さえ覚える。 あれは、そう。 幼い頃に、継母さまが膝の上に乗せて聞かせてくれた、お伽話に出てくる。 妖精、精霊、そういった類のもののような。 鳥篭の中に閉じ込められていた、人。 見たこともない深い蒼い目で、夢を見るような表情をしていた。 背格好からするに、天国よりもいくらか年上だろう。 海の色が、天国にまっすぐに向けられる。 歩み寄ってきたその人は、ふわりと天国の前にしゃがみこんだ。 やはりそれは、音の聞こえないような、けれどひどく優雅な仕草で。 僅かに首を傾げたその人が、そっと天国の頬に手を触れる。 あったかい。 人の、体温だった。 ぬくもりだった。 生きている、生きてここにある、存在の。 泣きたくなるような気分で、天国はその人の指をそっと握って。 にこりと、笑って見せた。 END |
Web拍手掲載期間→2006.1.19〜2006.6.12 |