【ICO イコ−霧の城−パロ】
(イコ=天国)







 御印をぎゅっと握りながら、大丈夫大丈夫、と呟いてみる。
 それだけで体の奥から力が湧いてくる気がして。
 たとえばそれが気のせいなのだとしても、そこに折り込まれた継母さまや村長の想いがあるのだという事実は、天国を奮い立たせるには充分過ぎるほどだった。
 うん、と一つ頷いて、搭の中にそっと足を踏み入れる。

 搭の中には何があるわけでもなく、天井まで長く伸びているだけだった。
 中が空洞になっているそのせいで、風を受けて唸り声のような音をたてているらしい。
 搭そのものが巨大な楽器のようだった。


「あ、れ……」


 何もない、そう見えたのだが。
 天井から何かがぶら下がっているのに気付き、天国は目を瞬いた。
 よくは見えないけれど、微かに揺れているらしいそれをジッと見据える。
 どうやら何かが吊るしてあるらしい。
 結構な大きさがあるそれに興味を覚えて、天国は搭の中をきょろきょろと見回した。
 天井の近くにあるものなのだから、何か足場があるはずだ、と。

 程なくして、搭の壁に据え付けられている階段を見つける。
 人が一人通れるほどの細い階段には、錆びた手すりが申し訳程度に備わっていた。
 壁に据えられた階段は、螺旋を描くようにしながら上へ上へと続いていた。
 天国は五、六段昇って、ぽんぽんと跳ねてみた。
 造りは粗末だがまだ使えそうだ。
 そう判断して階段を上って行く。


「鳥篭……か?」


 搭の半分ほどまで進めば、吊り下げられているものも大分近くなる。
 何やら金属で出来ているらしいそれは、僅かに身を震わせるその度にギイキイと軋んだような音をたてていた。
 そしてどうやらそれが、巨大な鳥篭のような形をしているらしいことも見えてくる。
 大きさからして、鳥篭というよりも檻と言った方が正しいのだろうか。
 そして何かが閉じ込められていると、言うのだろうか。
 嫌な予感に階段を上る足が早まる。

 駆け上るようにして階段を上った天国は、鳥篭のような形の檻の中身を覗けるようになった時にあっと声をあげていた。
 中に、人がいる。
 それが見えたからだ。

 鳥篭の底、中の人物にとっては床に座り込んで、どこか遠くを見るような目をしていた。
 蒼い髪をしている。空というより、先ほど垣間見た海のような色だった。
 綺麗だな、と状況も忘れて見入ってしまう。
 天国の存在に気付いていないのか、天国の方へ視線を向けようとはしない。
 まるで夢の中にいるかのようだった。

 声をかけようかどうしようか。
 でも放っておくわけにもいかない。

 迷っている天国だったが、ふっと。
 鳥篭の中の人物が、そんな天国の逡巡に呼ばれたかのように、天国へと目を向けた。
 髪と同じ、深い蒼をした目だった。

 その、まるで人ではないかのような端整な顔立ちに。
 天国は知らず知らずのうちに、息を呑んでいた。





END


 

 

 



Web拍手掲載期間→2005.3.28〜2005.4.30

 

 

 

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