【ICO イコ−霧の城−パロ】 (イコ=天国) 駆け出した天国は、やがて外へ出た。 とは言っても城の高い場所にいるため、このまま飛び降りて村へ帰るというわけにもいかない。 少し落胆しながら、それでも外の空気を感じられたことはやはり嬉しく思う。 頬をうつ風、耳元を渦巻く風音、体を照らす暖かな日の光、そして初めて目にする海、その潮騒とつんとした香り。 天国は首をゆっくりと回して、城から見える景色を眺めた。 城の位置が崖上だということもあるのだろうが、村にあったどんな背の高い木よりも高くから見下ろす景色は、ただただ絶景だった。 この城にニエとして捧げられなければ、そして自分の身を護る御印がなければ、こんな景色は見られなかったのだろう。 人生、悪いことばかりじゃない。 なんとなくそんなことを思って、少し笑う。 空の高い高い場所で、見たこともない鳥が高い声で鳴いた。 まるで、天国の考えを肯定してくれるかのように。 「搭、か……?」 それから天国は、ゆっくりと右手の方向へ体を向ける。 風鳴りのような音は、そちらから聞こえてきていた。 そこにあったのは、細長い搭と、そちらへ向けられた橋。 天国は橋の手前に立っていた。丁度出てきた場所が、橋の手前になっていたのだ。 ごおおおん、と搭が唸る。 生き物みたいだ、そう感じてきゅっと拳を握った。 その唸りが自分を歓迎しているのか拒否しているのか、どちらかは分からなかった。 「行かなきゃ、だよな」 呟いて、少し深呼吸して。 搭へ向けて、足を踏み出した。 海風が、天国の体を浚うように強く吹きつけてくる。 御印が風に煽られるのを、体の前で押さえた。 搭の入り口に扉はない。 元々なかったのか、それとも。 ただ、見る限り中に誰かがいることはなさそうだった。 勿論それは表から見ただけでは判断のつかないことだとも承知していたけれど。 薄暗い搭の内部を見据えて、天国は少し息を呑んだ。 END |
Web拍手掲載期間→2005.3.28〜2005.4.30 |