電子的恋愛コミュニケーション



 ポケットの中に入れてあった携帯が震えるのを感じ、天国はさり気ない仕草で振動を止めた。
 マナーモードにしてあろうと、この振動音というのは割合響いたりするのだ。
 静かな場面であれば特に。
 幸いにも教師にも周りにも気付かれなかったようで、安堵の息を吐く。

 こっそり取り出した携帯を開き画面を見れば、予想通りメールが来ていて。
 開けば、これまた考えたままの人物からのメールで。
 どうやら向こうは、毎週この時間に暇になるらしい。どんな授業なのかまでは知らないけれど。
 メールの内容はいつでもどうでもいいような事だ。
 眠たい、とか。話長いんだよなー、とか。そっちは何してんの、とか。
 往々にしてくだらないことばかりのそれに、天国は律儀に返信をする。
 相手の言葉がどうでもいいような事が多いから、自然天国の方もとりとめもないような言葉になる。

 感覚としては、授業中にノートの切れ端に「今日遊びいかね?」とか書いて回すのに近いのだろう。
 クラスどころか学校すら違う自分たちにとっては、コミュニケーション手段が紙ではなくメールであるというだけの話で。
 教師の目を盗みつつメールの返信をしながら、ふっと口元を緩める。
 これはこれで会話なんだろうな、なんて思って。
 今日の御柳からのメールは『ちょーいい天気じゃね?』だった。

「野球日和ってーやつだな!」
『アイス食いに行きてえ』
「相変わらずだな…また屑桐さんに怒られっぞー?」
『俺の道は俺が決める』
「カッコイイこと言った気でいるのかもしんねーけど、アイスが理由での言葉だって気付け? 全然イケてねーから」
『んーだよ、一緒に出掛けたいっつーのを遠回しに言ってんだろー?』
「分かりにくい」

 ぽんぽん、と弾む会話。もといメール。
 あーいいなあ、やっぱ面白いよなあ、なんて思いながら笑いをかみ殺す。今は授業中であることを一応覚えてはいたので。
 メールであるからして、送信してから返信があるまでにやや時間がかかる。
 ぽかりと空いた時間は、会話の合間にふと訪れる沈黙のようで。
 手の中の携帯を握り締めながら、何気なく窓の外に目をやる。御柳が言ってきた通り、外はすっきりとした晴れが広がっていた。
 空が、蒼い。

 手のひらサイズの機械で、いつでもどこでも繋がっていられるようになったけれど。
 でもやっぱり、顔が見たいと、面と向かって言葉を交わしたいと思ってしまうのは当たり前の感情だろうと思うから。
 笑うように目を細めた天国は、携帯を開くと御柳の返信を待たずにぷちぷちと言葉を打ち込んだ。
 それはふと湧き上がった衝動。けれどちゃんと、今の素直な心情。

「うん、やっぱ俺も会いたい」

 何て返事が返ってくるかな、と。どんな顔をして読むかな、と。
 想像して、くすりと笑う。
 会いたくなるのも本当だけれど、返信を待つ楽しみも嘘じゃない。
 携帯の画面を指でカツ、と弾いて。天国は携帯を閉じた。



END


 

 



Web拍手掲載期間→11/1〜2/26

この二人はメールのやり取りとか好きそうだよなあ、と。
学校が違うとそれだけでも障害なのさっ。高校生だしねまだ。

 

 

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