【有罪】 殺意がたなびくなら 愛は有罪なのに いつか、殺してしまうかもしれない。 そんなことを考えた自分に気付き、そして天国がそんな自分の手を振り払わないことに、ただゾッとした。 絡めた指を、ぎゅっと強く握って。 ぱたぱたと落ち、散る汗が。 逃げられない罪の証のようだった。 シャワーを浴びて戻ってきてみれば、天国は既に寝息を立てていた。 天国は元々大人びた顔立ちではないが、目を閉じて無防備に寝入っているとますます幼く見える。 それでいて半開きの口元は妙にセクシーで、そのアンバランスさに御柳は笑う。 「ホーント、飽きないよなー……」 当然のことながら、寝入っている天国が御柳の呟きに答えを返すことはない。 ベッドサイドに置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを手に取った。 水が揺れ、ぴしゃんと小さな音を立てる。 御柳はベッドの端に腰を下ろすと、天国の顔を覗き込んだ。 すう、と穏やかな寝息が耳を打つ。 満ち足りた寝顔、とでも表現すべきだろうか。心地良さげに眠る天国は、言葉ではなくともこの場所…御柳の領域で安堵しているようで。 誰かの心を預けられて、それが嬉しいとか。 そんなことを、自分が思うようになるなんて、予想もしていなかった。 「俺んこと、んなに信用してもいーわけ?」 ぽつり、呟く。 天国が聞いていないからこそ、問える言葉。 きっと天国が聞いたなら、笑うか怒るか、どちらにしろあのまっすぐな目で自分を見て何か言ったのだろうから。 御柳は、確かに天国が好きだったけれど。 それでも、苦手な部分はある。天国もきっと同様だろう。 御柳にとって、天国の苦手な部分はと言えば、その天衣無縫なほどのひたむきさと言って過言ではなかった。 まっすぐなまっすぐな、目。 前を向き立ち続け挑み続ける、強かさ。 折れない、心。 勿論、天国の中が綺麗なだけかと言えばそれは否だ。 人間なのだから、裏表があるのなんて当然なことなのだから。 むしろ裏のない、それを全く見せない人間なんて信用できないし逆に危ないと御柳は常々思っていた。 けれどまあ、それにしたって。 綺麗なだけじゃない、とは言え天国のまっすぐさが眩しく思えることだって珍しくもなくて。 それを感じているのが自分だけではないのだと、そう考えると心穏やかでいられなくなる。 好きだから、愛しいから、それ故に渦巻く嫉妬を押さえきれない。 他の誰の目にも触れないように、自分だけが触れられるように、籠に閉じ込めてしまえれば。 そんなことを考えたことは、1度や2度じゃきっと済まない。 可愛さ余って憎さ百倍、だなんて昔の人間は上手いことを言ったものだと思う。 愛しさは、時に狂気だ。 誰かに寄せる想いは、どこから溢れてくるのかも分からないのに尽きることがない。だからこそ、それが1度憎しみにシフトしてしまったら。 そうでなくても、この感情は身を食らわんばかりだと言うのに。 愛しくて、愛しいから。 だから、その身を食みたいような気分にだって、なる。 けれど、今は。 手放したくないから、御柳は眠る天国の頬に、そっと口づけるに留めた。 いつかこの先、その均衡が崩れる日があるのだとしても。出来ることなら、それがずっとずっと先であればいいと。 そんなことを考えながら。 END |
Web拍手掲載期間→2005.4.30〜8.27 |