【歪みの国のアリスパロ】(アリス=天国、チェシャ猫=御柳)



 俺は猫だ、と。
 にやにやと笑いながら、ソイツは言った。

 ねこって…四本足で歩くあの、猫か?
 猫という単語が他に示すものを、俺は知らない。
 それとも俺が知らないってだけで、他にも意味があったんだろうか。

「御柳」
「へ?」
「オマエは俺を、そう呼んだだろ?」

 にやにや笑いはそのままに、ことんと首を傾ける。
 軽薄そうな見た目でそういう仕草をされると、なんつーかこう…ほだされそうな気になるっていうか。

「みやなぎ、って…呼べばいいのか?」
「オマエが望むなら、どうとでも。俺らの理だからな、天国は」

 ……訳が分からん。
 そもそも、どうして俺はこのあからさまに妖しいヤツと呑気に話なんぞしてるんだ。

 大体沢松はどこに行ったんだ。一緒に自習室にいたはずなのに。
 アイツまさか、妖しいヤツが来たからって逃げたんじゃねえだろな。
 くそぅ、次会ったら私刑だな。

「さて、んじゃ行くか」
「…どこに?」

 ああしまった!
 何普通に受け答えしてんだ俺!
 こういう場合は相手を刺激しないように注意しつつ、しかし関わらないようにするのが鉄則だろうがよ!
 頭を抱えてのたうち回りたい気分の俺に、自称猫こと御柳は言った。

「白ウサギを追いかけるに決まってっしょ」
「白、ウサギ?」

 復唱してしまった。
 だって御柳が言った言葉があまりに非日常っつうかファンタジーだったから驚いたっていうか!
 ウサギを追いかけるなんて、これじゃあルイス・キャロルの……

「俺たちのアリスはオマエだよ、天国。俺らの理」

 困惑する俺の心中を読んだみたいに、御柳はそう言った。
 そうだ、アリスだ。不思議の国のアリス。
 白ウサギを追いかけて、穴に落ちる。落ちた先に待つ、不可思議な世界と奇妙な住人たち――

 御柳のにやにや笑いなんて、チェシャ猫そのままだ。だから猫だと言ったんだろうか。
 俺は、これから。どうなるんだろう。
 どうすべきなんだろう。
 御柳のにやにや笑う口元を見ながら、俺はどきどきと鼓動が鳴るのを感じていた。

 それが、どんな意味でなのか。
 俺には、分からなかった。



END



 

 

 


Web拍手掲載期間→2007.5.26〜2007.10.30

帽子屋は兎丸でネムリネズミは司馬。(出てきてないよ!)

 

 

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