【童話物語パロ】
(ルージャン=御柳、フィツ=兎丸、ゴンドル=獅子川)





 押し当てられた銃口が今にも火を吹きそうな気がする。
 そんな筈はないのに、銃口が熱を発しているように思えた。
 熱いのは銃ではなく己の体と意識なのだと気付き、御柳は床に着いていた手、その指先に力を込めた。
 爪の先が石の床に立てられ、ざり、と音を立てる。

 これまでか、そんな言葉が頭の中で渦を巻いていた。
 悔しさと諦めが胸の内を支配していく。

 歯車の下で、兎丸が御柳に負けず劣らずの蒼い顔をしているのが目に入った。
 兎丸からは御柳の後頭部に押し当てられた銃は見えないだろうが、獅子川の大きな靴ぐらいはしっかり見えていた。
 何より、御柳の表情が今の状況を雄弁に物語っていた。


「妙な動きしッやがったら撃つぜ? そこにあるんだろ、取れよ」


 ごり、と銃口が更に押しつけられた。
 冷や汗がこめかみを伝い床に落ちる。
 御柳はいつの間にか口の中に溜まっていた唾を飲み込み、僅かに頷いた。
 声は喉の奥で貼り付いてしまったかのように出てこなかった。

 何かないか、状況を打破できるものが――
 一瞬でも、コイツの気を逸らせるものが、何か。
 何か、何か何か何か!!

 体は動かさずに、御柳は周囲に目を走らせる。
 絶望的な状況だとは分かっていたけれど、大人しく死んでやる気になどなれなかった。
 その時、御柳は気付く。
 兎丸が二つの歯車に描いた白い線、それが視界にあることに。
 別々の歯車に描かれた白い線、それが今まさに近付きつつあった。
 その、意味することに。


「おッい、さッさとしろ」

「わ、分かった。奥にあるから、手を伸ばさねーと……」


 銃に怯えたようなフリをして、今度は先ほどよりも強く、頷いてみせる。
 振り返ることは出来なかったが、獅子川が満足そうに笑っているのが手に取るように分かっていた。

 御柳は身をよりいっそう屈め、歯車の下に手を伸ばす。
 兎丸が呆然と御柳の顔を見ていた。
 それに、御柳は合図を送った。
 耳を塞げ、と。

 だが混乱している兎丸は分からなかったらしい。
 蒼褪めた顔は少しマトモな色に戻ってはいたが、きょとんとしたまま目を瞬いている。
 舌打ちの一つもしたい気分を抑え付け、御柳は横目で歯車を見やった。

 白い線が、かみ合う。

 合図だ。

 御柳は銃が押しつけられていることも忘れ、兎丸に向かって小さく、だが鋭く言い放った。
 ただ一言、


「耳塞げ!!」


 兎丸にそれが聞こえたかどうかを確認する間もなく、御柳自身も両手でぎゅっと耳を押さえる。
 唐突な動きに獅子川が目を見張ったその瞬間。



 時計搭の鐘が、その身を震わせた。



 耳を塞いでいても尚、その音は凄まじい。
 びりびりと、体を震わせるほどの轟音だった。
 その鐘の音は、御柳が生まれ育った街の教会にある釣り鐘搭の音とは比べ物にならなかった。
 この時計搭の音に比べれば、あんなものは子供の玩具と言っても差し支えないほどだった。
 一度その身を以ってこの音の凄まじさを体感している御柳は、顔を歪めながら獅子川を見やった。


 予想通り、鐘の音をマトモに食らった獅子川は額を押さえながらよろめいていた。
 言葉にならないうめき声が、その喉から洩れている。
 その機を逃す御柳ではない。

 体を半回転させながら、肘を獅子川の鳩尾に叩き込んだ。
 しゃがみ込んだままの姿勢からのそれは、いつもより威力は劣っていたがそれでも獅子川の手から銃を落とさせるほどの勢いがあった。
 落ちた銃は重い音を立てて、石の床を少し削った。
 からからと回るそれを部屋の隅に向かって滑らせ、御柳は歯車の奥にいる兎丸に向かって手を伸ばす。


「来い!」


 必死な形相で耳を押さえていた兎丸が、それに気付き御柳の手のひらに飛び込む。
 軽い体を握り潰さないようにしながら、御柳は跳ね起きた。
 起き上がりざま、足の先で獅子川の顎に蹴りを入れる。
 のけぞった顔から、血が飛んだ。

 御柳は掴んだ兎丸をポケットに落とし入れ、左足を軸に体を回転させると獅子川の横っ面に踵を叩き込む。
 渾身の力をこめたそれに獅子川は吹っ飛ばされ、時計搭の壁に背中を強かに打ちつけた。
 屈強な獅子川はそれぐらいではノックアウトしなかったが、すぐに動けるわけでもない。

 膝を着いた獅子川が顔を上げる前に、御柳は時計搭の窓に向かって走り出していた。
 ポケットの中に押し込まれた兎丸が体勢を立て直し、その入り口から顔を出した丁度その時。


 御柳は、窓の外へ向かって身を躍らせていた。



END


 

 

 

Web拍手ありがとうございますSS、第七弾。

これまた児童書です。
好きな作家さんがお薦めしてたのと、帯の煽りに惹かれて買った代物。
宮崎+エンデ+クロウリー、とかだったかな?
厚さはそこそこですが、かなりすらすら読めた本です。

時間とか硬貨とか、世界観がきっちり設定してあって。
「くあー、なんでこんなん書けちゃうかなぁ!!」
とか思いながら読んでました。
宮崎アニメ好きな人は結構好きになれる話かと。

そして配役をイメージ重視で行ったために、
一見すると何だか分からない取り合わせになってます(爆)
筆力はまだまだですが、戦闘シーンとか書くの、結構好き。
動きが見えるような話が書けるようになりたいっすー!!(決意を語るなここで)

原作では同じ場面がありますが、ここまで酷く蹴っ飛ばしたりしてません。
つ、ついね…やっちゃいまして…
だってホラ御柳だし(ぇ)


Web拍手掲載期間→2004.8.8〜2004.11.16

 

 

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