【Dearsパロ】
(レン=天国、武哉=御柳)






 昨夜は、酔っていた。


 そう、昨夜御柳芭唐は泥酔直前になる勢いで、飲んでいた。
 未成年のくせに。
 教師や部活の先輩に知られたらこってり絞られるだろうが、そんなこと恐るるに足らず。
 むしろ、追い込まれれば追い込まれるほど、楽しさが増すだなんて罰当たりなことを考えていたりして。

 御柳は酒癖が悪いわけではなかったから、その日も年齢を偽り適当にその場を楽しんだ。
 そう、つまり。
 昨夜は、酔っていたのだ。
 店を出た前後辺りから記憶が曖昧な所を見ると、結構な量を飲んだらしい。

 幸いにも、二日酔いにはなっていないらしかった。
 欠伸をしながら、瞼を上げる。



「……で、これ誰よ」



 呟いたのは、目を開けたその目の前に見知らぬ顔があったから。
 それ程驚かなかったのは、相手が同性だからということもあったが。
……別にそれはそれで出来ないことはないのだけれど。(何を、というのはこの際愚問だ)
 他人に強い執着を見せない御柳にとって、見知らぬ誰かと一晩を過ごす、という経験は珍しくもなかったからだ。

 その人物は御柳の呟きにも起きることなく、すやすやと寝息を立てている。
 目を覚まさないのをいいことに、御柳はその人物をまじまじと観察することにした。

 明るい茶の髪に、同じ色の睫毛が伏せた瞼を縁どっている。
 美丈夫、とまでは言えないだろうが、どこか人目を引くような顔立ちだった。目を開ければ、また少し与える印象が変わるのだろうけれど。
 あどけない、と形容するのがいいだろう寝顔はどこか安心しきっているようで、思わず御柳は笑った。
 背格好から察するに、恐らく御柳と同世代だろう。


「ってか、俺のシャツ着てんじゃんよ」


 見れば、少年は御柳のシャツを着ていて。
 互いに横になっているせいで正確な身長差は分からないが、体の作りや腕の太さの違いからして、御柳よりも小柄なのだろう。
 着込んだシャツは、言ってしまえば「彼のウチにお泊まりしました★」的な雰囲気を醸し出していた。


「つーか、マジ、シたんだっけか……?」


 相手の名前すら知らないというのに。
 反省の欠片も感じられない顔で言いつつ、御柳は何とはなしに少年の髪に手を触れた。
 さらりと、見た目よりか柔らかい感触に素直に気持ちいいと思う。

 そのまま暫く相手の髪を撫でていると、ふと少年が身じろいだ。
 起こしたか、と手を止めれば少年がゆるゆると瞼を開けた。
 寝起きらしい緩慢な動作で、目元を擦る。


「………よ、おはよ」

「……ぅん…?」


 返事、ではない。
 半分以上、夢見心地でいるのだろう。
 まあ、御柳の発した言葉も、大概ありきたりで間抜けなものだったのだけれど。
 御柳の呼びかけに、少年は答えとも言えないような音を発して。
 寝ぼけ眼で御柳の顔を見ると、ふにゃっと笑った。
 少年の発した声と笑顔に触発されてか、ふっと断片的に昨夜の記憶が脳裏を巡った。



 帰りがけに通りかかった公園で、佇む影を見かけたこと。
 大概酔っていたせいだろう、その影に声をかけたこと。
 声をかけたはいいが、言葉が通じなかったこと。
 自分の名前と、相手の名前らしきものだけは通じたこと。



「……みゃあ…」

「あ、何か覚えあんな、その言い方……ってオイ、まだ寝んの?」

「むー……」

「なあ、えーと、あまくに? だっけ?」


 少年の名前は、天国。
 それ以外は何を言っているのか殆ど分からなかったが、響き的にそれが名前なのだろうと当たりを付けたことを思い出した。
 そうして、言葉の通じない天国が自分のことを『みゃあ』と呼んだことも。
 言い慣れない日本語で、みやなぎ、という言葉が言いづらかったのだろう。
 名前の方、バカと呼ばれなかっただけマシかと笑った記憶がある。

 つらつらと記憶を辿っているその間に、天国はもぞもぞと御柳の方にすり寄り。
 御柳の胸に額を押し付けるようにして、すやすやと寝息を立て始めてしまった。
 まるで、子猫が母猫の体温を求めて寄り添うかのようで。
 触れるぬくもりなど、もう随分長いこと忘れていたような気がする。


「あー……ま、難しいことは後ででいいっしょ……」


 まごうことなく平日の今日は、朝練も学校もあったりするのだが。
 今更行っても間に合うわけもなく、それをいいことに御柳は惰眠を貪ることにした。
 胸元のぬくもりが、ゆるゆると眠りに誘う。
 御柳は、天国の背に手を回すと睡魔に一切抵抗することなく眠りに落ちた。
 頬を寄せた天国の髪は、日向のような匂いがした。


 数時間後、目を覚まして天国が今話題の宇宙人ことディアーズだと気付き御柳らしくもなく混乱するのだが。

 それはまた、別の話。







END



 

 

 

Web拍手ありがとうございますSS、第五弾。

ディアーズパロのキャスト変えver.でございます。
別名「据え膳」バージョン(笑)

この後どうなるのか、的な終わり方をしておりますが、
特に続編は考えておりません。
しかしネタの神様が降臨していらっしゃいましたら書きます故(笑)

そしていつのまにか拍手御礼入れ換え期間が一ヶ月周期に…



Web拍手掲載期間→2004.8.8〜2004.9.11

(UPDATE:2004.9.11)

 

 

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