君を守るのは。 迷信に騙されて? 「モンキーベイベ−、向かい干支って知ってるKaい?」 「は? 何すか、それ」 意外に虎鉄が迷信やら占いやら、を好きなのだと気付いたのは。 二人の関係が部活の先輩と後輩、から俗に言う『恋人』に昇格してから割と早い期間でのことだった。 言葉の響きから察するに、今回のもまたそれなのだろうと思う。 聞き慣れない言葉に、天国は怪訝そうに眉を寄せた。 「十二支をな、時計の文字盤みたいにぐるっと円で書いてみるとするだRo?」 「はあ」 今度は何に嵌ったというのだろう。 そんな呆れ半分な気分になっている天国にお構いなしで、虎鉄は嬉々として語り始めた。 合点がいかないながらも、天国は虎鉄の言葉のまま脳内で十二支を円にして並べてみせる。 「それでNa、その円で丁度対角線上になった干支ってーのが、自分を護ってくれる干支なんだってYo」 「対角線上……」 子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)。 それを円で描き、その対角線上になる干支と言えば。 子は午と。 丑は未と。 寅は猿と。 「……あ」 「分かったKa?」 「ホンットに好きですねアンタ。こーいうの」 「悪かねーだRo? 俺はお前を護る騎士ってーわけDa★」 うーわ。 この男、今騎士って書いてナイトってルビふりやがった。 古っ。 それもウインク付き。 呆れる天国を余所に、虎鉄はにやにやと。 もう、嬉しくて仕方ない、とでも言いたげな表情を隠そうともせずに晒している。 今更それを注意しようという気も起こらない。 だけれど、一つだけ。 一つだけ、訂正しておかなければならないことが、ある。 天国は、人差し指でちょいちょいと虎鉄を招いた。 招かれた虎鉄は、慣れた仕草で天国に顔を近づける。 悪戯心が身をもたげ、天国は目の前にある虎鉄の耳を少しばかり強めの力で引っ張った。 「痛っ、オイ、何……」 「アンタが俺を護るばっかだと思うなよ? 俺だってアンタを護ってやんだからな」 ぼそりと、低い声で。 おそらくは虎鉄の好む、少し掠れたような声音で。 自分は護られるだけの存在ではないのだと。 向かい干支が、自分を護ってくれると言うのならば。 寅が猿を護る干支なのだと言うのなら、逆もまた然り。 猿が寅を護る、ということでもあるのだろう。 何より天国自身が、護られることだけを受け容れられるほど大人しくはできていなかった。 護り、護られるのではなくて。 どうせなら、互いの背中を預け合える、そんな関係がいい。 告げてやってから、天国は掴んでいた耳を離すと踵を返して離れてしまう。 囁かれた虎鉄はと言えば。 耳を押さえながら、柄にもなく熱くなっている頬を宥めるように軽く首を振った。 まるで、殺し文句だ。 「これだから……止めらんねーんだよNa」 試し試され、追い追われ。 一方通行だった矢印がちゃんと相互に届くものになってからも、このスリリングなカーチェイスのような空気は、変わらない。 笑いながら、虎鉄は猿野の背を追った。 君を護りたい。 なんて。 さあ、言ったのはどっち? END |
Web拍手ありがとうございますSS、第ニ弾。 何故か来ました、虎猿です。(何故かて、失礼な) 作中の向かい干支、先日の京都旅行でふらりと見つけた代物でして。 これは書かねば…! と妙な使命感に燃えました(笑) 一応全部上げてみましょか。 【向かい干支一覧】 子―午 丑―未 虎―申 卯―酉 辰―戌 巳―亥 と、なるわけですね。 犬と辰、バッテリーコンビはちゃんと組みでした。 偶然なんだろうけど、凄いな〜と。 ともかく短い話ですが。 楽しんでいただけたなら、幸いです。 Web拍手掲載期間→2004.5.6〜2004.7.2 |