「終末論」 この恋は少しだけ、世界の終わりを覗かせる。 そんなことを考えたのは、今まで生きてきて初めてだった。 「何考えてんの?」 「お前の髪、色素薄いよなぁ、って」 すらすらと、始めから用意されていたかのように口からはぽんと言葉が飛び出した。 その実、言葉と同時に頬を両手で挟まれて顔を至近距離で覗き込まれて、内心はぎゃあと叫びたいほど驚いていたのだけれど。 叫ばなかったのは、こんな至近距離でそんな事をすれば確実に顔を顰めてうるせぇ、と告げられてそのまま口を塞がれるというオチが待っているのを分かっていたからだ。 御柳は天国の言葉に納得したのかしないのか、どちらかよく分からない曖昧な表情でふうん、と洩らした。 「ガキの頃とか、何か言われたりしなかったか?」 「あ? んなこと、覚えてっかよイチイチ。めんどくせえ」 「御柳くんは鬼畜ですからねー」 何か言ったりしたりしようものなら三倍どころか十倍になって返ってきそうだ。 というか、確実にそうするだろう目の前の色男は。 自分の身を以ってしてそれを理解している天国は、思わず遠い目をしてしまう。 天国の態度が気に食わなかったのか、それとも逆に気に入ったのか。 目の前の御柳が、すうと目を細めた。 この男はいつもそうだ。 機嫌がよくても悪くても、絵筆ですっと引かれたような形のいい目を細める癖がある。 紅が彩るその目が、天国はひどく好きで。 同時に少しだけ、怖いとも思った。 無限の底に、引きずり上げられそうな気がする。 薫るのは、どう贔屓目に見ても危険な色彩。 この男を選んだのはどうしてか。 それは未だに、天国自身にも分からない。 「無防備な面」 く、と喉の奥で笑って、御柳は何気ない仕草で天国に口付ける。 軽く触れたそれは、すぐにちゅ、と音を立てて離れた。 頬を包むように触れている手だけはそのままに。 「……ま、いっか」 「何が?」 「世界の終わりについての考察」 「やーっぱお前、ワケ分かんねー奴な」 深淵を覗かせる目が、笑っている。 それだけで、もうどうでもいい気持ちになった。 終わりを考えないことはないけれど。 終わらないことなんてないけれど。 それで、今を楽しめないのは、何か違うと思うから。 笑う御柳の頭の後ろに手をやり、引き寄せて。 天国は、噛み付くようにその唇を塞いだ。 END |
Web拍手ありがとうございますSS、第十弾。 しっとり系を目指した芭猿です。 その実いちゃこらしてるだけの気もしますが(笑) Web拍手掲載期間→2004.9.10〜2004.11.23 |