しゅうまつにはいっしょにいよう (その手が震えないように) |
「なーんか信じらんねえよなぁ」 ふっと笑いながら、天国は拍子抜けしたように呟いた。 「何が?」 問う声は、天国のすぐ後ろ…というか、耳元。 耳にかかる吐息に、天国はくすぐったそうに肩を竦めて。 「こーやって、みやくんと一緒にいるってことが、さ」 言いながら天国は頭を後ろに逸らした。 白い喉があらわになる。 逸らした頭は、何かにとん、と当たり。天国はそのままその何かに身を委ねるようにもたれかかった。 何か、は勿論のこと御柳に他ならず。 天国は背後から御柳に抱き締められるような格好で座り込んでいた。 他の誰かに見られることのない御柳の自室だからいいようなものの、誰かが今の二人の体勢を見れば少なくとも胸焼けを起こしたのではなかろうか。 言わば二人の体勢は、恋人同士のいちゃつき以外の何者でもなく。 御柳はそんな天国を抱え込むように回した腕に、ぎゅっと力をこめた。 猫科動物を思わせる目が、嬉しげに細められる。 「そりゃやっぱ、陳腐な言葉だけど運命ってやつっしょ」 「うっわ、何キザなセリフ口にしてんだよ。似合わね〜の〜」 御柳の言葉に天国は遠慮なくけらけら声を立てて笑い。 それを聞いた御柳は失礼な奴、と顔を曇らせた。 けれど自分の言葉がらしくない自覚はあったのか、反論しようとはせずに。 ぶすくれた顔のまま、天国の肩口に顔を埋めた。 さらさらと音をたてて、御柳の髪が触れる。 天国は触れる感触と優しい音とに、愛しげに目を伏せた。 開け放たれたままの窓から、風がそよそよ吹き込んでくる。 冷たくも強くもない、優しい風。 その風は天国と御柳と、両方の髪をふわふわと揺らした。 吹きつけた風のせいか、それとも別の理由でか。 天国は伏せていた目を開け、御柳は天国の肩に埋めていた顔を起こした。 二人ほぼ同時に。 「信じらんねーよな」 「そうだな」 独り言のように天国が言ったのに、御柳が微かに頷く。 二人、目線は窓の外。 夕暮れ近い空は、青とオレンジと紫とが混じり合い壮大なグラデーションを作っていた。 「綺麗だな、空」 「これで終わりだなんて思えねーな」 「……うん」 頷いた天国は、自分に回されている御柳の腕に、そっと手を重ねた。 指先が、少し冷えていた。 寒いわけではないけれど、手が震えた。 かたかたと、小さく。 それに応えるように、天国の手に御柳が手を重ねる。 御柳の手も、小さく震えていた。 「あったけー」 「お前の指、ちょっと冷たいな」 「心があったかいからな!」 「…いつもはお前のがあったかいくせして」 「聞こえませーん」 くすくすと、笑い合いながらふざけ半分の会話。 それは、いつも通りの。 部屋の中に吹き込む風が、僅かに強くなったよう。 それに気付いた天国は、きゅっと眉を寄せた。 それから天国は、何かを思いついたらしく御柳の袖をくいくいと軽く引いて。 「みやくん、俺向き変える」 「ん、どーぞ」 その言葉に、御柳は素直に抱え込んでいた腕を解いた。 天国は向きを変え、正面から御柳に抱きついて。 間を置かずに、御柳の腕が天国の背中に回される。 天国は御柳の肩に頬を乗せた。 「でも俺、幸せなんかもな」 「なんで?」 「大好きな奴とこーやって一緒にいられるから」 「んー、それじゃ俺のが幸せだな」 にや、と笑いながらの御柳の言葉に、天国は体を起こして御柳の顔を覗き込んだ。 その顔にはなんでだよ、と言う言葉が貼りついている。 相変わらず表情に出るなー、と笑いながら、御柳は天国の頬に軽く唇を押し付け。 「だって俺、お前のこと愛しちゃってっからな」 「ぎゃあ!」 「うっせ。耳元で怒鳴んな」 「怒鳴らせるようなこと言ってんの誰じゃぁ!」 「俺」 「くっそ、飄々と…ッ」 「嬉しいだろ?」 いけしゃあしゃあと言い募る御柳に、天国は耳までも真っ赤に染めて。 けれど、こくりと。 小さくだけれど、確かに頷いてみせた。 「あーもーめっちゃくちゃ恥ずっ!!」 そのすぐ後にそう喚いて、赤くなった顔を隠すように御柳の肩に埋めてしまったのだけれど。 不意に、風が強くなった。 窓の外、ごうごうと音がしている。 それに煽られるように、窓ががたがたと揺れた。 天国はどこか不安げに窓の外に目をやり、御柳の服をきゅっと掴んだ。 「みやくん……」 「そろそろみてーだな」 「そだな、合図っぽかったよな」 「随分とまぁ親切だな」 「ばーか」 苦笑し、天国は御柳の肩から顔を上げた。 まださっきの赤面の名残りで、天国の目元は火照ったようになっている。 心なしか潤んだように見える瞳に、御柳はふっと笑んだ。 「あー残念」 「何が?」 「最後にヤっときゃ良かったな〜って思って」 「腹上死でもしたかったってのかよ?」 「それもよくね?」 「……最悪。離せよ、もう」 心底イヤそうな顔を造り、天国は御柳の腕の中から逃れ様と身じろいだ。 けれど御柳は天国を離す気などないらしく、天国も本気で離れるつもりもないらしく。 結局天国は変わらず御柳の腕の中で。 天国は仕方ないなぁ、とでも言いたげに息を吐き、御柳は満足そうに喉の奥で笑った。 「キスくれーならいーだろ?」 「うん。俺も、したい」 「じゃ、遠慮なく」 笑い合いながら、唇を重ねる。 軽く触れ合わせて、少し深くして、深く吐息を交わし合うように舌を絡ませて。 ふっと息を吐いたのは、どちらからともなく。 グラデーションの空は、紫が濃くなっていた。 空気が震えるように、風がごうごうと音を立てる。 その音を耳にしながら、キスを繰り返して。 手の震えは、止まっていた。 二人とも。 ◆END◆ |
2002.2.22日記より再掲載。 わー長くなっちったぞーいと。 なわけでマイブーム芭猿でした。 ちうかいちゃつきすぎです、貴方ら(笑) 浮かんだ絵は、ベッドとかコンポとかある部屋で背中から抱き締められてる天国さん。 それを元に組み上げていったら、こんな話が出来ました。 今回のタイトルに漢字を使わなかったのはわざと。 漢字変換すると「終末には一緒にいよう」になります。 実は漢字違いの「週末には一緒にいよう」もあったりして。 なんとなくパラレルが書きたくなったので終末ver.になったのでした。 実は馬猿ver.とかも考えてあったりするのは内緒の話(笑) 個人的にはこーいう話、結構好きなのです。 基本的にラブ出身なんでね(笑) |
UPの際の後書き。 芭猿でした。 世界の終わりの話。 どこかもの悲しいけど、でも幸せかも? …的な話が書きたかったようです。(他人事かい) UPDATE/2003.3.24 |
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